第62話 デートのお誘いはすんなりと
「大丈夫だ。スマートに、サラッと聞くだけ……」
俺は廊下を歩きながら、心の中で自分に言い聞かせていた。水瀬をデートに誘う。
それだけのことだ。別に大したことじゃない。友達として、少し一緒に遊びに行こうって言えばいいんだ。スマートに、さりげなく──。
けど、緊張しているのは間違いない。
これまで他人の恋愛相談には乗ってきたけど、自分がデートに誘うなんて、初めてのことだった。
考えれば考えるほど、言葉が出てこない気がしていた。
「でも、ここでやらなきゃいつまで経っても進まない……」
自分を奮い立たせながら、教室の入り口で水瀬を見つけた。彼女は友達と話しているところだったけど、俺はタイミングを見計らって近づいた。
「水瀬。」
呼びかけると、彼女がこちらを向いて微笑んだ。
すぐに友達にも「また後でね」と言って俺に近づいてくる。その瞬間、胸の鼓動が少し早くなったけど、平静を装う。
「田中くん、どうしたの?」
「……あ、いや、ちょっと聞きたいことがあってさ。」
この時点で心の中は焦りまくっていたけど、外見は何とか冷静を保っていた。
ここで焦って変に長引かせるよりも、短くササッと済ませる方がスマートだ。
「次の土曜日、どこか遊びに行かないか?」
予想以上にスムーズに言葉が出た。
それだけで、自分に少しだけ安心感が広がった。水瀬は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかい笑顔で頷いた。
「うん、いいよ。」
……え?
俺は内心で驚いたが、ここでもササッと済ませることが大事だと再び自分に言い聞かせた。
「あ、そっか。じゃあ、また連絡する。」
「あ、うん、分かった。」
それだけで、俺はサラッとその場を後にした。
心の中では「デートの約束、成功した!」という達成感があったが、振り返らずにその場を離れることに専念した。
冷静を装いながらも、実際には心臓がバクバクしていた。
******
「うん、いいよ。」
そう答えて、私、水瀬結花は田中くんを見送った。
でも、彼が去っていくのをぼんやりと見つめながら、頭の中で何かが引っかかっていることに気づいた。今の……。
「──え?」
私は自分の返事を反芻する。
そして、田中くんとのやり取りを頭の中で繰り返してみる。短いやり取りだったけど、確かにあの会話の流れは──。
「私、今……デートに誘われた?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
確かに田中くんは「土曜日にどこか遊びに行かないか」と言っていたし、私は「いいよ」って答えたけど……これってデートってことだよね?
「待って、待って……」
急にドキドキし始めた。
すごく自然な感じで、あまりにもサラッと誘われたせいで、全然実感がなかったけど……もしかして、これって本当にデートなの?
「え、ええ……?」
思い返してみても、田中くんの表情は特に変わっていなかった。
いつもの冷静な感じで、なんかさらっと聞かれて、さらっと返事して……。
でも、デートに誘われるって、もっとこう特別な感じがすると思ってたんだけど。
「え、私、今、すんなりデートに誘われた?」
だんだんと現実感が追いついてくる。田中くんにデートに誘われた──これって、そういうことだよね?
でも、なんでこんなに自然に受け入れちゃったんだろう。もう少し心の準備とか……。
「えぇ……どうしよう……」
私は教室で一人、軽く混乱しながら、頭を抱えた。
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