第60話 後輩オタクは先輩オタクを応援する

「そっか……先輩が気になっている人は、水瀬さんなんだ。」


 田中先輩から、水瀬さんの名前を聞いた時、やっぱりか、という気持ちと、少しだけショックを受けた気持ちが入り混じった。


 一個上で一番人気の美少女で、みんなが憧れる存在──水瀬さんが、田中先輩の気持ちを掴んでいる。


 その瞬間、私は自分が本当に負けたんだって感じた。けれど、そんな気持ちを押し殺して、冗談を言って明るく振る舞った。


「そりゃ、私じゃ勝てないかぁ。」


 自分でも、よくこんな冗談を言えたなって思った。


 でも、先輩が結花さんに惹かれていることを知って、私はすぐに気持ちを切り替えることにした。


「でも、私は諦めてませんよ、先輩!」


 そう言って、軽く笑ってみせた。


 冗談っぽく言ったけど、本当に私はそう思っていた。


 まだ完全に諦めたわけじゃないけど、今の自分には田中先輩を応援することしかできない。それが私にできる精一杯のこと。


「水瀬さんには、ちゃんと気持ちを伝えないとダメですからね?」


 そう言いながら、少しだけ自分のことを思い返していた。私は勇気を出して先輩に告白した。


 結果としては振られたけど、後悔はしていない。自分の気持ちに正直になったことは、自分にとって大きな一歩だったと思う。


「でも、今は……応援しよう。」


 そう心の中で決めた。田中先輩が水瀬さんを好きだということは、はっきりした。だからこそ、私は今、先輩を支えるオタク仲間として一緒に楽しい時間を過ごしたい。


 私は、田中先輩とのオタク仲間としての関係が本当に好きだ。


 アニメやラノベの話で盛り上がったり、一緒に何かに夢中になったりする時間は、私にとってかけがえのないもの。


 それを壊さずにいられるのなら、それだけで十分だって思う。


「先輩、今日は何の話しますか?」


 放課後、いつものように田中先輩と図書室で向かい合って座った。


 ラノベの話題で盛り上がると、つい忘れてしまいそうになるけど、こうして一緒に笑っている時間がとても大切だ。


「そうだな、凛が今ハマってる作品、教えてくれよ。」


 田中先輩がそう言って微笑んだ。その笑顔を見ると、やっぱり胸が少しだけ苦しくなる。


 でも、今はその気持ちを抑えて、先輩との楽しい時間を大切にしよう。


「あ、この前の新作、すごく面白かったんですよ!設定がすごく凝ってて……」


 話し始めると、つい興奮してしまって、いつの間にか夢中になって話していた。


 先輩も楽しそうに聞いてくれるし、時々自分の意見も交えて話してくれる。こういう時間が、今は私にとって一番幸せだと思う。


 でも、その一方で、田中先輩と水瀬さんがどうなるのか、少し気になってしまう。


 もし先輩が水瀬さんに告白して、水瀬さんがそれに応えてくれたら……私の恋は本当に終わってしまう。


「……それでも、いい。」


 そう自分に言い聞かせた。だって、田中先輩が幸せになるなら、それでいいんだ。


 私は先輩が好きだけど、今は彼の恋を応援する立場でいることが、私にできることなんだから。


「それに、私は先輩のオタク仲間だから。」


 笑顔で先輩と一緒にいられる時間を大切にしながら、私は自分の中で少しずつ気持ちを整理していく。


 オタク仲間として、これからも先輩と一緒にいられるなら、それで十分だって思う。


「先輩、これからも一緒にたくさん話しましょうね!」


「もちろんだよ、凛。」


 田中先輩のその言葉に、私は心から安心した。


 これからも一緒に楽しい時間を過ごせる──それが今、私にとって一番大切なこと。


 そして、先輩が水瀬さんに気持ちを伝えるその時まで、私は彼を応援し続けよう。たとえそれが、自分の恋の終わりを意味するとしても──。

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