第59話 後輩の勇気を思い出して
放課後、図書室で凛と一緒にラノベの話をしていた。これまでも何度となく、俺たちはこうしてオタク趣味の話題で盛り上がってきた。凛との時間は、昔から変わらず居心地がいい。
だけど、最近は何かが違う。俺も、凛も──。
「──先輩、私の質問、避けてますよね?」
突然、凛が真面目な顔で言ってきた。俺は一瞬、何のことか分からず、凛の顔をじっと見つめた。
「質問?」
「そう、質問です。……あの時、私を振った理由です。」
凛が真っ直ぐに俺を見つめている。彼女の視線が鋭くて、俺は少しドキッとした。
「あの時、先輩は『気になっている人がいる』って言ってましたよね。でも、まだ誰なのか教えてくれてませんよね?」
そう言われて、俺は少し戸惑った。凛のことは大切に思っているし、彼女に対して誠実に向き合いたいと思っている。
だからこそ、今ここで正直に答えなければならない。
「えっと……」
俺は軽く息を吸い込み、意を決して答えることにした。
「その……水瀬結花っていう人なんだ。」
その名前を口にした瞬間、凛は目を丸くして驚いた。
「水瀬結花って……あの一つ上で一番人気を争う水瀬結花さんですか!?すごく有名な……」
俺は少し頷き、凛の反応を見守った。確かに、結花はクラスでもアイドル的存在で、誰もが認める美少女だ。凛の驚く気持ちも分かる。
「そっか、そりゃ私じゃ勝てないかぁ……」
凛は少し寂しそうに微笑んだ。その表情を見て、俺は胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。
凛は俺に告白してくれた。振ったのは俺だ。彼女に対して申し訳ない気持ちが今でも残っている。
でも、次の瞬間、凛は明るく声を出して言った。
「──でも!私は諦めてませんよ、先輩!」
凛は突然、冗談交じりにそう言って、俺の方に指を突きつけてきた。その表情は明るく、笑っている。
「え?」
「だって、結花さんみたいな有名人に勝つのは簡単じゃないけど……私だってまだ可能性ゼロじゃないかもしれませんからね!」
凛の言葉に、俺は驚きつつも笑ってしまった。冗談なのか本気なのか、彼女の明るさに救われるような気持ちになった。
「そっか……」
「そうです!だから、先輩が水瀬さんとどうなるかは分からないけど、私だって応援してるんですからね。でも、もしうまくいかなかったら……まだ私にもチャンスあるかもって思ってますから!」
凛はにっこりと笑っていた。その姿を見て、俺は心からホッとした。彼女が明るく振る舞ってくれていることで、少しだけ肩の力が抜けた。
「ありがとう、凛。」
「うん。でも、ちゃんと水瀬さんには気持ちを伝えるんですよ?そうじゃないと、いつまで経ってもモヤモヤしてるだけですからね!」
凛の言葉に、俺は頷いた。彼女の応援を受けて、結花に気持ちを伝える決意がさらに強くなった。
「そうだな……ちゃんと伝えるよ。今度こそ、はっきりと。」
「よし!じゃあ、成功を祈ってます!でも、もし失敗したら私が待ってますから!」
凛は冗談っぽく言いながら、明るく笑った。その言葉に俺も笑って、彼女との会話を楽しんだ。
凛の応援を受けたことで、俺の気持ちは固まった。水瀬に対する想いを、誠実に伝える。結果がどうなろうとも、俺は自分の気持ちを隠さずに向き合うべきだ。
凛が振り絞った勇気を思い出し、俺はその気持ちを胸に、次の一歩を踏み出そうと決意した。
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