第58話 カフェにて女子会 その3

「最近、田中くんと凛さんとなんか一緒にいることが多くない?」


 放課後、カフェで美咲と二人きりの時間を過ごしながら、私はずっと胸に溜まっていた疑問を口にした。


 美咲は驚いたように私を見つめ、ストローを口から外して少し考え込むような表情をした。


「んー、そうかな?私はそんなに気にしてなかったけど……なんかあったの?」


 私は少し戸惑った。特に確かな証拠があるわけじゃない。


 けれど、最近、田中くんと凛さんがよく一緒にいるのを見かけることが増えた気がする。


 二人が話している姿を見つけるたび、胸がチクチクと痛むのを感じる。


「特に何かがあったわけじゃないんだけど……ただ、二人が仲良さそうにしてるのを見てると、なんか気になっちゃって。」


 言葉にするたびに、自分の不安が少しずつ形になっていくような感覚があった。


「でも、水瀬はそれが気になるってことは……やっぱり田中くんのこと、好きなんだよね?」


 美咲はそう言って、まっすぐに私の目を見てきた。彼女のその言葉に、心臓が跳ねた。


 好き──その言葉が頭に浮かぶたび、胸の奥が熱くなる。


「うん……」


 私は小さく頷いた。美咲には何度も恋愛の話をしてきたけど、今回の気持ちはこれまでとは違う。


 自分でも驚くくらい、田中くんのことを考えてしまう。


「でも、最近、なんか不安で……」


 美咲は少し首を傾げながら、私の話を待ってくれている。


 私は胸の中に溜まっていた感情を少しずつ言葉にしていった。


「田中くんって、優しくて誰に対しても誠実で、いつも友達の恋愛相談に乗ってるよね。でも、凛さんとは、なんだか特別な関係に見えることがあって……」


 私は正直な気持ちを打ち明けた。田中くんと凛さんがよく一緒にいるのを見かけるたびに、二人の関係が気になって仕方がなかった。


 何か特別なことがあるんじゃないかと疑ってしまう。


「凛さんって、すごく可愛いし、田中くんとも気が合ってるみたいだから……私なんかより、ずっと相性がいいんじゃないかって、そう思っちゃうんだ。」


 美咲は真剣な表情で私の話を聞きながら、小さく頷いていた。


「結花は、田中くんと凛ちゃんがどうなるかを心配してるんだね。でもさ……それって、気持ちを伝えてないから不安になるんじゃない?」


 美咲の言葉は、まるで心の中を見透かされているようだった。確かに、私が不安なのは、田中くんに気持ちを伝えられていないからだ。凛ちゃんに先を越されたらどうしよう、そんな思いが頭を離れない。


「でも……もし私が気持ちを伝えて、振られたらどうしようって思ってしまって……」


 正直に言うと、そこが一番の不安だった。彼には好きな人がいるかもしれないし、もしその相手が凛ちゃんなら──そう考えるだけで、胸がぎゅっと締め付けられるような痛みを感じる。


「それはさ、気持ちを伝える前はみんなそう思うんだよ。」


 美咲は笑いながらそう言った。


「でも、伝えないままでいたら、ずっとその不安は消えないよ?逆に、ちゃんと気持ちを伝えれば、どんな結果になってもスッキリするんじゃないかな。結花がどうするかはもちろん自由だけど、私は結花が自分の気持ちに正直になった方がいいと思う。」


 美咲の言葉にはいつも芯がある。彼女がそう言ってくれると、少し勇気が湧いてくる。


「それに、凛ちゃんのことも考えすぎかも。私が見た感じ、二人は友達として仲が良いだけだと思うよ。田中くんって、誰に対しても優しいから、あんまり深く考えすぎない方がいいかもね。」


 美咲の言葉に、少し肩の力が抜けた。確かに、田中くんは誰に対しても優しい。それが、特に凛ちゃんに対して特別な感情を持っているわけではないのかもしれない。


「そうだね……私、深く考えすぎてたかも。」


 美咲はにっこり笑いながら、私に励ましの言葉をかけてくれた。


「大丈夫だよ、結花。田中くんも、きっと結花の気持ちに真剣に向き合ってくれるよ。だから、後悔しないように、自分の気持ちをちゃんと伝えてみたら?」


 その言葉を聞いて、私は少しだけ前向きな気持ちになった。ずっと悩んでいたけれど、こうして誰かに相談してみると、自分の気持ちが整理できる気がする。


「ありがとう、美咲。……私、もうちょっと考えてみるよ。」


 私は美咲にお礼を言いながら、少しだけ笑顔を返した。彼女の言葉で、少しだけ勇気が湧いたけれど、まだ完全に踏ん切りがついたわけではない。


 でも、心の中で少しずつ、自分の気持ちに向き合う準備ができ始めているのを感じた。


「うん!応援してるからね、結花!」


 美咲の明るい声に見送られながら、私は家路についた。まだ不安は残っているけれど、少しずつ、田中くんに気持ちを伝える覚悟ができつつある気がしていた。

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