第57話 妹に相談してみる
夕飯を終えて自室に戻り、ベッドに寝転んでいた。
水瀬に気持ちを伝える──そう決心したものの、実際どうやってそれを伝えるべきか、頭の中はまだ整理しきれていない。
「……どうすればいいんだろうな。」
自分で決意したはずなのに、気持ちを言葉にするとなると途端に緊張してしまう。
今までの友達への恋愛相談とは違って、これは自分自身の恋愛。簡単に解決できるものではない。
その時、部屋のドアが少しだけ開き、顔を覗かせたのは妹の光莉だった。
「お兄ちゃん、さっきから何か考え込んでるみたいだけど、どうしたの?」
俺は咄嗟に答えを探しながらも、別に大したことじゃないよ、と軽くごまかそうとした。
しかし、光莉は目を細めてじっと俺の顔を見つめる。
「嘘だ、絶対なんかあるでしょ?最近のお兄ちゃん、なんか変だもん。」
俺は少し動揺しながら、何も変わってないよ、と言ったが、光莉の視線は鋭い。
彼女は椅子を引いて、俺のベッドの隣に座り込んだ。
「もしかして……好きな人でもできたんじゃないの?」
突然の質問に、俺は一瞬固まってしまった。
「え……」
「やっぱりそうなんだ!」
光莉はニヤニヤと顔を近づけてくる。
「お兄ちゃんに好きな人ができたんだー!えー、誰誰?どんな人?教えてよ!」
彼女の言葉に、俺は少し戸惑った。
けれど、このまま隠し続けるのも不自然だし、実際、相談できる相手が今は妹くらいしか思い浮かばなかった。
「……うん、いるよ。」
そう言うと、光莉の顔から一気に笑顔が消えた。
まさか本当に認めるとは思っていなかったのか、彼女は少し困惑した表情で俺を見つめている。
「えっ、本当に?冗談で聞いただけだったんだけど……」
光莉があまりにも予想外の反応を見せるので、俺も少し苦笑してしまった。
「冗談で言ったわけじゃないよ。……実は、ちょっと相談したいことがあるんだけど。」
「えっ、嘘……お兄ちゃんが私に相談するなんて……なんか素直で気持ち悪い」
「おい!」
そんなやり取りをした。光莉は驚きつつも、すぐに真剣な表情に変わった。
「……いいよ。どうしたの?」
俺は、少し考えてから水瀬のことを話し始めた。
もちろん、全てを包み隠さず話すつもりはなかったが、彼女に恋愛相談をされることから始まった関係や、最近はただの友達として見られないこと、そして今、彼女に気持ちを伝えようと思っていることを、素直に打ち明けた。
光莉は静かに俺の話を聞いていたが、途中で何度か目を大きく開いて驚いていた。
そして、話し終わると、少し考え込んだ様子を見せた。
「……なるほどね。お兄ちゃんも、とうとう恋愛に本気になる時が来たんだ。」
「まあ、そうかもしれないな。」
「でも、その人……水瀬さんだっけ?彼女に好きな人がいるっていうのが、ちょっと気になるよね。」
光莉の言う通りだ。水瀬にはすでに好きな人がいる。それが誰なのか、結局俺には分からないままだ。
だからこそ、俺の気持ちを伝えることが不安でもあった。
「うん、それが怖いんだよな。でも、伝えないままじゃ、どうしようもない気がして……」
俺は少しため息をついて、正直な気持ちを漏らした。光莉はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「お兄ちゃんがそう思うなら、伝えるしかないと思う。だって、今のままでモヤモヤしてても、いつかはもっと辛くなるでしょ?」
彼女の言葉は核心を突いていた。伝えなければ、俺の気持ちはずっとくすぶり続け、いずれ耐えられなくなるだろう。
「そうだな……」
「それに、好きな人がいるって言っても、水瀬さんが本当にその人とどういう関係なのかは分からないわけでしょ?」
俺は頷いた。
水瀬が具体的に誰を好きだと言ったわけではない。もしかしたらのもしかしたら、それは思い違いかもしれない。
「それなら、もう覚悟を決めて告白しちゃった方がいいと思う。結果がどうなるか分からないけど……でも、お兄ちゃんが誠実に伝えれば、それだけで大丈夫だよ。」
光莉のアドバイスは、意外にも的を射ていた。
俺は彼女の言葉に背中を押されるような感覚を覚えた。やはり俺の妹なだけあるな。
「ありがとう、光莉。」
「えっ、急にお礼とか言わないでよ!なんか気持ち悪い……」
そう言いながらも、光莉は少し照れくさそうに笑った。
「でも、うん。お兄ちゃんが悩んでるなら、いつでも相談してよ。私が相談役になってあげるからさ!」
「頼りにしてるよ、妹さん。」
「うわ、キザなこと言うなぁ……でも、頑張ってね!応援してるから!」
光莉の元気な声に励まされ、俺は少しだけ肩の力が抜けた気がした。自分の気持ちに正直に向き合う。
それが、俺にできる一番のことだと分かったから。
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