第54話 もう大丈夫
田中先輩との教室での会話が終わり、私は静かに教室を後にした。涙を拭き、顔を上げるたびに少しだけ気持ちが楽になっていくのを感じた。
「好きです」と伝えて、断られた。でも、それでも伝えられたことで、胸の中に溜まっていた苦しさが少しずつ消えていった。
田中先輩に振られたことは辛かったけど、彼は誠実に向き合ってくれた。それが何よりも嬉しかった。
次の日、学校に行くと田中先輩の姿が目に入った。彼はいつものように廊下を歩いている。
今までなら、すぐに話しかけたくなるような状況だったけど、今は少しだけ躊躇してしまう。
「……どうやって話しかけたらいいんだろう?」
これからの関係をどう築いていけばいいのか、まだよく分からない。
でも、田中先輩は私に「これからも一緒にいよう」と言ってくれた。その言葉を信じて、私は少しずつ前に進むことに決めた。
******
放課後、図書室に向かうと、田中先輩が先に座っていた。彼はいつもと変わらない様子でラノベを読み、穏やかに過ごしていた。
「……田中先輩、こんにちは。」
私は少し緊張しながら声をかけた。田中先輩は顔を上げ、すぐに微笑んでくれた。その笑顔を見ると、少しだけ心が軽くなる。
「おう、凛。今日は一緒に話せるか?」
田中先輩の声は優しく、あの告白のことを気にする素振りも見せていなかった。それが逆に、私を安心させてくれた。
「はい、もちろんです!」
私は席に座り、田中先輩といつものようにラノベやアニメの話を始めた。話しているうちに、自然と笑顔が戻ってくるのを感じた。
彼との関係は、告白前とは少し違うかもしれないけれど、それでも彼と一緒にいる時間はやっぱり楽しかった。
話が進むにつれ、ふと田中先輩が真面目な顔をして言った。
「凛、昨日のことなんだけどさ……本当にありがとう。俺、凛が自分の気持ちをちゃんと伝えてくれたこと、すごく感謝してるんだ。」
田中先輩はまっすぐ私を見つめて、言葉を続けた。
「俺、凛との関係を大事にしたいんだ。だから、これからも一緒にいてくれたら嬉しい。」
その言葉に、胸が温かくなった。振られたのに、こんな風に言ってくれるなんて、田中先輩は本当に優しい。
私はもう一度微笑んで、彼の言葉を受け取った。
「私も、これからも一緒に話したいです。先輩が言ってくれたように、私も先輩との時間がすごく大切ですから。」
それから、私たちはまた、いつものように話し続けた。田中先輩は気を使いすぎず、でも自然な距離感を保って接してくれている。
私も無理に気持ちを抑え込むことなく、少しずつ前に進もうとしている。
もちろん、すぐにこの気持ちを整理するのは難しいかもしれない。
だけど、田中先輩がこれからも一緒にいてくれると約束してくれたことで、私は一歩ずつ前を向いて歩んでいける気がしていた。
その日、図書室を出る頃には、私は田中先輩に心から感謝していた。
彼は私を振ったけれど、それでも私たちの関係は変わらない。むしろ、今まで以上に深まった気さえする。
「これからも、よろしくお願いしますね、田中先輩。」
そう言いながら、私は笑顔で手を振った。田中先輩も笑顔で返してくれる。
その瞬間、私は心の中で「もう大丈夫だ」と自分に言い聞かせた。
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