第55話 彼女の気持ちに応えるために

 

 凛との関係が、新しい形で動き出した。


 あの日、告白を断ったことで、彼女との関係がどうなるか心配だったけど、凛は強かった。


 自分の気持ちをしっかりと伝えた後、また俺と普通に話せるようになった。それが何よりも嬉しかった。


 図書室でのやり取りも、少しずつ元に戻ってきた。


 アニメやラノベの話で盛り上がり、時折彼女の小さな笑顔を見るたびに、俺は「凛との友情が守られた」と感じることができた。


 ある日、学校が終わり、凛と一緒に図書室へ向かう途中、ふと凛が軽い声で言った。


「先輩、前に話してたアニメの新作、もうチェックしましたか?」


 俺は笑いながら首を横に振った。


「まだだよ。最近、学校のことでバタバタしててさ。でも、凛のオススメだから、近いうちにちゃんと見るつもりだ。」


 凛は「楽しみにしてますね」と言って、微笑んだ。あの告白のことはお互いに触れずに、でもどこか以前よりも自然に会話が進んでいく。

 その微妙な変化が心地良かった。


 図書室に着くと、席に座り、いつものようにラノベの話題に移った。凛とのこうしたやり取りが、再び日常に戻ってきたことに安堵していた。


「そういえば、次の巻が出るらしいですね。主人公の恋愛模様、どうなると思いますか?」


 凛が興味津々に問いかけてくる。俺は軽く考えた後、答えた。


「たぶん、ヒロインとの関係がもう少し深まるんじゃないかな。あの二人は何だかんだでお互いを気にしてるし。」


「やっぱりそうですよね!」凛は目を輝かせて言った。


 その時、ふと俺は、凛とのやり取りが今まで以上に大切に感じられることに気づいた。彼女は俺に告白して断られた。


 でも、凛はそれを乗り越えてまた一緒にいてくれている。それが今、どれだけ貴重なことなのかを感じていた。


 俺たちはしばらく話し続けた後、図書室を出ることにした。夕方の空が少しずつ暗くなり始める中、学校の廊下を歩きながら、凛がポツリとつぶやいた。


「先輩、これからも、今みたいに一緒に楽しく過ごしていきたいです。」


 その言葉に、俺は改めて彼女の強さを感じた。凛は振られたにもかかわらず、前を向いて歩み続けている。


 それは簡単なことではないだろうけど、彼女はそれを乗り越えてくれている。


「もちろん。俺も凛と話すのが楽しいし、これからも変わらず一緒にいよう。」


 俺は彼女に笑顔で答えた。その時、凛の表情が少し緩んだように見えた。彼女も少しずつ、自分の気持ちに整理をつけていけるのかもしれない。


 その日、家に帰ってから、ふと思い返した。凛があれだけ強くいられるのは、本当にすごいことだと思ったし、俺も彼女に負けてはいられない。


 俺にはまだ、整理しなければならない自分の気持ちがあった。


「気になっている人がいる」と凛に告げた時、俺の頭の中には水瀬のことが浮かんでいた。水瀬に対して特別な感情があることは、認めざるを得なかった。


 水瀬水瀬──クラスの人気者で、誰もが認める美少女。でも、彼女はただの外見だけじゃなく、その内面も人を惹きつける。俺に恋愛相談を持ちかけてきた時から、どこか彼女を意識するようになっていた。


「……俺も、はっきりしないとな。」


 凛が自分の気持ちに向き合い、俺に告白してくれたように、俺も水瀬に対する気持ちにきちんと向き合う時が来ているのかもしれない。凛とのやり取りを通じて、俺は自分の気持ちを整理し始めていた。


 その夜、机に向かいながら俺は決意を固めた。凛が前に進んでいるように、俺も一歩前に進まなければならない。


「水瀬に、俺の気持ちを伝えないと……」


 まだ自信はない。


 だけど、凛が自分の気持ちにケジメをつけたように、俺もその一歩を踏み出す時が来ている気がしていた。

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