第52話 後輩からの告白
「──田中先輩、ちょっと話したいことがあるんですけど……いいですか?」
廊下で凛が声をかけてきた時、俺は少し驚いた。
最近の凛は、俺を避けているように見えたし、話しかけられることも少なくなっていたからだ。けれど、その表情はいつもと違い、何か決意を固めたように見えた。
「もちろん。どうした?」
俺はできるだけ穏やかに答えたが、内心では緊張していた。凛の様子がいつもと違うのは明らかだったから。
彼女が何か重要なことを話そうとしている──それだけは確かだった。
教室に移動して、二人で向かい合う。凛は机の上で手を組み、視線を下に向けたまま何かを考えているようだった。
俺は言葉を待った。焦らず、彼女が言葉を出すのを待つしかなかった。
「実は……ずっと伝えたいことがあって……」
彼女の声は小さく、震えていた。その言葉を聞いた瞬間、俺の胸が少しざわついた。
何かを決意している──そんな重みを感じた。凛が抱えているものが、ただの軽い話ではないことを直感的に感じられる。
「先輩と過ごす時間……本当に楽しかったです。今でも、先輩と一緒にいるとすごく楽しいんです。」
凛の声は少しずつ震えが収まってきたが、その表情はまだ不安げだった。俺は軽く頷き、彼女の言葉に耳を傾けた。
「俺も、凛との時間は本当に楽しかったよ。お前と話してると、自然と盛り上がるし、気楽にいられる。」
俺は正直な気持ちを伝えた。凛との時間は、本当にリラックスできるものだった。
彼女も同じように感じてくれていることに、少し安心した。
「でも……最近、その楽しい時間が、楽しいだけじゃなくなってしまったんです。」
その言葉に、俺は少しだけ驚いた。楽しかった時間が楽しいだけじゃなくなる──それはどういうことだろう?
俺は黙って続きを待った。凛が話そうとしていることは、きっと自分の中で、深い所で抱えていたものなのだろう。
「最初は、先輩と一緒にいることが本当に楽しくて、ただのオタク仲間としてそれで満足していました。でも……」
凛は少し視線を下げ、言葉を探しているようだった。彼女の手は少し震えていて、その緊張が痛いほど伝わってくる。
彼女は意を決して話し始めた。
「でも、だんだんと……先輩と話していると、胸が苦しくなるようになってきたんです。」
凛の言葉が胸に響いた。楽しいはずの時間が、彼女にとっては次第に辛いものに変わっていったということ。俺にはそれが想像できなかった。
「どうしてだろうって、自分でも分からなくて……。先輩のことを考えると、嬉しいはずなのに、同時に苦しくなって……自分がどうしてそんな気持ちになるのか、ずっと悩んでいました。」
凛の声はかすかに震えていた。彼女がこの数週間、俺を避けていた理由が少しずつ見えてきた。彼女は俺との関係に何かしらの違和感を感じ、それをどうすればいいか分からなかったのだろう。
「でも……最近気づいたんです。私、先輩のことが、ただの仲間じゃなくて……」
凛は言葉を詰まらせた。その瞬間、俺は胸の中で何かがはっきりするのを感じた。凛が伝えようとしているのは、ただの仲間以上の感情――彼女がずっと抱えていたものが、恋愛感情だということに気づいた。
「……私、田中先輩のことが、好きです。」
凛の「好きです」という言葉が教室に静かに響いた。
告白を受けた瞬間、俺は頭の中が真っ白になった。ずっと避けられていた理由がこれだったんだ──彼女が、ただのオタク仲間としてではなく、俺を異性として見てくれていたことに気づいていなかった。
凛は深く息を吸い込み、ようやくその言葉を絞り出した。彼女の瞳には涙が浮かんでいて、その告白がどれだけ彼女にとって重いものだったかが分かった。
俺は言葉を失った。凛が俺のことを好きだと、こうして面と向かって言葉にしてくれたことが、正直に言うと驚きだった。
彼女がこんなにも俺に対して特別な感情を抱いていたなんて、気づけなかった。
「凛……」
俺は彼女の名前を呼んだが、何を言うべきかがすぐに出てこなかった。
凛がどれだけ勇気を振り絞って、この気持ちを俺に伝えたのかが痛いほど分かったからこそ、軽い言葉では返せない。
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