第51話 向き合う決意
あの日、田中先輩と真剣に話をしてから、私の中で少しだけ気持ちが軽くなった。
先輩は私を責めなかった。むしろ、真剣に私のことを心配して、話を聞いてくれた。あの瞬間、私は改めて、田中先輩がどれだけ優しい人なのかを実感した。
だけど、それでも──私の中にある「好き」という気持ちを、先輩に伝えることはできなかった。
「どうしよう……」
心の中でずっと考え続けていた。このまま、今の関係を維持したままでいいのか、それとも自分の気持ちをちゃんと伝えるべきなのか。
先輩とまた普通に話せるようになったけれど、それでも私の心はまだ落ち着いていなかった。
先輩に対する想いは、まだ胸の奥に残っている。このまま抑え込んでいれば、関係は壊れないかもしれない。でも、伝えなければ、この苦しさはいつまでも消えない。
「……先輩のこと、好きなんだ。」
その気持ちを自覚するたびに、胸が痛くなる。どうして、こんな風に好きになってしまったんだろう。
先輩とはただのオタク仲間でいたかった。そう思い続けてきたのに、今ではその気持ちを押し込めることができなくなっている。
「このまま、先輩に伝えなかったら……」
私はいつまでもこの感情を抱えたまま、先輩と接しなければいけない。それが、どれほど辛いことかはもう分かっている。
避け続けていた時も苦しかったし、今こうして普通に話せているのに、心の中ではまだモヤモヤした感情が残っている。
「でも、もし伝えたら……」
先輩との関係が変わってしまうかもしれない。それが一番怖い。今の楽しい時間が、先輩に告白することで壊れてしまうかもしれないと思うと、なかなかその一歩が踏み出せなかった。
放課後、私は一人で図書室に向かっていた。前みたいに田中先輩と一緒に過ごす時間を楽しみたい──その気持ちはあるけれど、今日は一人で少し自分の気持ちを整理したかった。
「どうすれば、いいんだろう……」
机に座りながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。外は夕日が落ち始めていて、校庭がオレンジ色に染まっている。静かな図書室の中で、一人きりの時間が流れていく。
「先輩に……ちゃんと、伝えなきゃダメだよね。」
ふと、そんな言葉が心の中に浮かんだ。自分の気持ちを伝えずに、ただ黙っているのは、先輩に対しても失礼な気がしてきた。
先輩は真剣に向き合ってくれたのに、私はまだ自分の気持ちに向き合い切れていない。
「……伝えたら、どうなるんだろう。」
先輩は、どう反応するだろう。怖い。でも、それでも自分の気持ちをこのまま放置しておくことはできない。
自分の心にケジメをつけるためにも、先輩に想いを伝えるべきなんだ。
その日、私は一つの決意を固めた。
「先輩に……ちゃんと、好きだって伝えよう。」
怖い。すごく怖い。けれど、これ以上自分を誤魔化し続けることはできない。
先輩がどう受け止めてくれるかは分からないけれど、私の気持ちを伝えなければ、先に進めない。
次の日、学校に行くと、田中先輩が廊下で歩いているのが見えた。
胸がドキドキして、緊張したけれど、私は勇気を振り絞って声をかけた。
「──田中先輩、ちょっと話がしたいんですけど、いいですか?」
先輩は少し驚いた様子だったけれど、すぐに微笑んで頷いてくれた。その優しい笑顔を見るたびに、私の心はまた少し揺れる。
「うん、もちろん。どうした?」
私は少し息を整え、これから先輩に伝えることを心の中で整理した。
「実は……ずっと伝えたいことがあって……」
胸の奥が締めつけられる。けれど、この瞬間が来ることは自分でも分かっていた。
私は、田中先輩に向き合うために、この決断をしたのだから。
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