第41話 誤魔化し合う二人
雑貨屋を出て、モール内を歩いている間、良哉と泉美はそれぞれ笑顔で楽しそうに話していた。
俺と水瀬は、少し距離を置きながら後ろを歩いていたが、ずっと頭の片隅にあったのは、さっきの「二手に分かれた時間」のことだった。
水瀬と話していた良哉の様子が気になって仕方なかったが、どう切り出せばいいのか分からないまま、しばらく沈黙が続いていた。
「……さっきさ。」
不意に水瀬が口を開いた。その声に、俺は少し緊張して顔を上げた。
「うん?どうした?」
「さっき、泉美ちゃんと二人で何話してたの?」
水瀬の質問に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。
泉美との会話の内容をそのまま伝えるのは、ちょっと気まずい。水瀬への気持ちを探られたことをそのまま話すわけにはいかない。
「えっと、普通に雑談っていうか……まあ、そんな大したことは話してないよ。」
「ふーん……」
水瀬は俺の曖昧な答えに少し不満そうな表情を見せたが、すぐにその表情を隠すように微笑んだ。
「そうなんだ。なんか楽しそうだったから、ちょっと気になっちゃって。」
水瀬のその言葉に、俺は逆に水瀬が何を話していたのか気になって仕方なくなった。
俺も、どうにかして水瀬と良哉が何を話していたのかを探りたくなって、同じ質問を返すことにした。
「水瀬はさ……良哉と何話してたの?なんか、盛り上がってたっぽいけど。」
俺がそう聞くと、水瀬は一瞬だけ目を伏せた。その様子に、俺は何かを隠されている気がして、少しドキドキしたが、彼女はすぐに笑顔を浮かべて答えた。
「えっとね……別に普通の話だったよ。良哉君って本当に面白い人だなって思っただけ。」
「そう……なんだ。」
俺はその言葉に対してなんとなく納得できない気持ちを抱えながらも、突っ込むことができなかった。
水瀬もやはり誤魔化しているのだろうか?そんな疑念が頭をよぎったが、核心には触れられないままだ。
「でもさ……田中君、本当に泉美ちゃんと仲良く話してたから、ちょっと意外だったよ。」
水瀬が小さく笑いながらそう言う。
彼女は冗談半分で言っているようだが、どこか本心も混じっているように感じた。
「いや、別にそんなことないよ。泉美さんがいろいろ話を振ってきただけで、普通に答えてただけだって。」
俺は慌てて弁明する。水瀬の視線がどこか鋭く感じて、ますます言い訳が増えてしまう。
「ふーん、そっか。じゃあ、何か特別な話があったわけじゃないんだね?」
「う、うん……そうだよ。全然、特別な話なんてしてない。」
俺が必死に誤魔化すと、水瀬はクスッと笑って「わかった」と頷いた。
その笑顔にホッとした反面、俺もまた疑問が拭えないまま、再び同じ質問を投げかけることにした。
「水瀬もさ、良哉に何か聞かれたりしてたんじゃないの?なんか俺のこととか……」
そう尋ねると、水瀬は目を見開き、一瞬戸惑った表情を浮かべた。その反応に、俺はますます焦ってしまう。
「えっ……そんなことないよ。ほんとに普通に良哉君がいろんな話をしてくれただけで、特別に田中君のことを聞かれたわけじゃないよ。」
彼女の声には少し動揺が感じられたが、すぐに笑顔を浮かべて誤魔化した。俺はそれ以上踏み込むことができず、軽く頷くしかなかった。
二人とも、互いに「普通の話」をしていただけだと言い張っているが、どこかぎこちない雰囲気が残っていた。
お互いに隠したいことがあり、それを言葉にしないまま、ただ会話を流しているような感覚だった。
俺も水瀬も、相手に気づかれたくないことがある──そんな微妙な空気の中、俺たちは何とかして会話を続けた。
「そっか、じゃあ、ほんとに大した話じゃなかったんだな。」
「うん、そうだよ。田中君も、泉美ちゃんと普通に話してたんでしょ?」
「まあ、うん。普通に話してた。」
俺たちはそれぞれ曖昧な言葉で誤魔化しながら、どうにか会話を終わらせようとした。
だけど、そのやりとりの中で、互いに意識している部分があることだけは確かだった。
その後、俺たちは再び4人で集まり、モールの中をぶらぶらと歩き続けた。良哉と泉美は相変わらず楽しそうに話しているが、俺と水瀬はお互いに何かを隠しながら、それを探り合うような微妙な空気が続いていた。
……なんだか、今日はいろいろ考えさせられる日だな。
心の中でそう呟きながら、俺は水瀬の横顔をちらりと見た。彼女もまた、何かを考え込んでいるように見えた。
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