第40話 友達の彼女の言葉
泉美との会話が終わり、俺たちは雑貨屋に戻った。店の中では、良哉と結花がまだ楽しそうに会話をしていた。
二人の姿を見ると、なんとなく安心する反面、俺の心は今まで以上にざわついていた。
「よし、じゃあ戻ろうか。」
泉美が楽しそうに言いながら先に進む。俺もそれに続くが、頭の中では結花のことがぐるぐると回っていた。
『結花ちゃんも、光君のこと気にしてると思うよ』
泉美が言ったその言葉が、まだ心の奥に引っかかっていた。
彼女がそう感じたということは、俺が結花を意識しているように、結花も俺を意識してくれている可能性があるということだろうか……?
「いや、そんなこと考えても仕方ないだろ……」
俺は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。今まで他人の恋愛相談に乗ることはあっても、自分がその対象になることはなかった。だからこそ、自分の気持ちに素直に向き合うことがこんなにも難しいのだ。
店の中に戻ると、良哉が俺たちに気づいて手を振った。
「おーい、戻ってきたか!どうだった?泉美と二人で話せてよかっただろ?」
良哉は相変わらずおどけた調子で言う。俺はそれを聞いて苦笑いを返した。
「いや、まあ……普通に話してただけだよ。」
「ほんとかな~?泉美は光君のこといろいろ聞き出してたっぽいけどね?」
良哉がニヤニヤしながら泉美の方を見た。泉美はすかさず「まあね!」と得意げに笑った。
「結構いい話できたよ。光君、意外と素直なんだから。」
「もう、勘弁してくれよ……」
俺は少し恥ずかしくなって、顔を赤らめながら答えた。良哉と泉美は楽しそうに笑っていたが、結花はそのやりとりを静かに見つめていた。
彼女の表情は少しだけ困惑しているようにも見えたが、すぐに微笑んで「それは良かったね」と言ってくれた。
「田中君、泉美ちゃんと話せて楽しそうだったね。」
結花のその言葉に、俺は少し戸惑ったが、すぐに「うん、まあね」と答えた。彼女の笑顔を見ると、ますます自分の気持ちが曖昧に感じてしまう。
「じゃあ、そろそろ別の場所でも行くか!」
良哉が提案し、4人で雑貨屋を出ることになった。モールの中を歩きながら、俺は頭の中で自分の気持ちを整理しようとしていた。
──結花のことを気にしてる……ってことは、俺は結花が好きなのか?
そんな単純なことを考えただけで、胸がドキドキしてしまう。けれど、今はまだその気持ちをはっきりと認めることができなかった。
恋愛というものに対して、今までどこか他人事のように考えていた自分にとって、この感情はあまりに新鮮で、どう扱えばいいのか分からなかったのだ。
「……どうすればいいんだろう。」
俺は心の中でそう呟きながら、結花の後ろ姿を見つめた。彼女といると安心するし、もっと一緒に話したいとも思う。
だけど、それが「好き」という気持ちなのかどうか、今の俺にはまだ答えが出せなかった。
良哉と泉美はまた何かを話しながら、二人で盛り上がっている。結花も時々その会話に加わって笑っていたが、俺は少し離れてその様子を眺めていた。結花の笑顔を見るたびに、俺の心は少しずつ揺れ動いていく。
「田中君、大丈夫?」
ふと、結花が俺の方を振り返って尋ねてきた。その優しい声に、俺は少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
「あ、うん。大丈夫だよ。」
俺は慌てて答えると、結花は安心したように微笑んだ。
「良かった。なんか、ちょっとぼーっとしてたから気になっちゃった。」
「いや、そんなことないよ。ただ……ちょっと考え事してただけだから。」
俺がそう言うと、結花は「そうなんだ」と頷いて、また前を向いた。その後ろ姿を見つめながら、俺は自分の心の整理がつかないまま歩き続けた。
結花との会話は、自然で楽しい。けれど、それが「好き」という感情に結びつくのか、まだ俺にははっきりと分からなかった。
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