第39話 友達の彼女

 泉美と二人で雑貨屋の外に出てから、しばらくショッピングモール内を歩いていた。泉美はカジュアルに会話を進めてくるけれど、なんとなく俺のことを見透かしているような鋭さがある。


「ねえ、光君。さっき結花ちゃんと一緒にいた時、すごく楽しそうだったね。」


 唐突に話を振られ、俺は一瞬ドキッとした。


「えっ……そんなことないよ。ただ普通に話してただけで。」


 慌てて否定するが、泉美はニヤニヤしながら俺の反応を楽しんでいるようだった。


「ほんとかな~?だって、結花ちゃんのこと気にしてるって顔に出てたよ?」


 泉美のからかい混じりの言葉に、俺はどうにも逃げ道がなくなってしまった。


「そ、そんなことはないって……」


「ふ~ん。でもさ、光君ってさ、なんか自分の気持ちに鈍感そうだよね。」


 泉美は少し挑発するような口調で言いながら、俺をじっと見つめた。その視線に耐えられず、俺は目をそらしてしまう。


「……鈍感って、そんなことないだろ。俺だって、自分のことくらい分かってるつもりだけどさ……」


「そう?だったら、結花ちゃんのこと、どう思ってるの?」


 その直球の質問に、俺は完全に言葉を詰まらせた。結花のこと……どう思ってるのか?自分でも答えが出ないまま、俺はずっと考えていた。


「どうって……普通だよ。話しやすいし、いい子だと思ってるけど……」


 曖昧な答えを返すと、泉美は再び鋭い視線で俺を見つめてきた。


「それだけ?」


「えっ……」


「話しやすいだけじゃないでしょ?もっと気になるところ、あるんじゃない?」


 泉美のその言葉に、俺はハッとした。確かに、結花はただ話しやすいだけの相手じゃない。彼女の笑顔や優しさ、時々見せる真剣な表情──俺はそれを自然と気にしてしまっている。


 だけど、それを認めるのは何か特別な意味を持つ気がして、まだなんだか迷いがあった。


「……まあ、確かに……気になるところはあるかもしれないけどさ。」


 ようやく素直に認める言葉が出たが、それでも自分の気持ちを完全に明かすことには抵抗があった。泉美はそんな俺の様子を見て、ニヤリと笑った。


「ほら、やっぱりね!そうやって素直になればいいんだよ。光君、もっと自分の気持ちに向き合った方がいいと思うな。」


 泉美の言葉は、まるで自分の心の中を見透かされているようで、どうにも落ち着かない気持ちだった。


「向き合うって……そんな簡単にできるものじゃないだろ。」


「うん、確かにね。でも、結花ちゃんも光君のこと気にしてると思うよ。」


 泉美は自信満々にそう言った。その言葉に、俺は一瞬驚いて彼女の顔を見た。


「えっ、どういう意味だ?」


「だって、結花ちゃんと話してる時、すごく自然だったし、彼女も光君のこと話しやすそうにしてたよ。お互いに、悪い感情なんて全く感じなかったし、むしろ楽しそうだったじゃん?」


 泉美のその指摘に、俺は頭の中で結花との会話を思い出す。確かに、結花との会話は自然で、いつも楽しい。

 でも、だからと言ってそれが「気にしている」ことになるのだろうか……?


「そんな風に見えたのか……?」


 俺が少し戸惑いながら尋ねると、泉美は自信たっぷりに頷いた。


「うん!結花ちゃん、きっと光君のこと、もっと知りたいって思ってると思うよ。だからさ、光君もちゃんと自分の気持ちを自覚した方がいいんじゃない?」


 泉美の言葉はまっすぐで、俺に自分の気持ちを考えさせるには十分な重みがあった。


 今まで他人の恋愛相談に乗ることはあったけど、自分の気持ちをここまで突き詰めて考えたことはなかった。

 結花のことをどう思っているのか──少しずつ、自分の中でその答えが浮かび上がってきているのを感じた。


「……分かったよ。もうちょっと、ちゃんと考えてみる。」


 俺がそう言うと、泉美は満足そうに微笑んだ。


「よし、素直になってくれて良かった!光君なら、きっといい感じに進められると思うよ。」


「いや、そんな簡単な話じゃないって……」


 俺が苦笑いしながら答えると、泉美は「大丈夫、大丈夫」と軽く笑い飛ばした。


 その後も、泉美と俺は軽く会話を続けながらショッピングモールを歩いたが、俺の頭の中は結花のことでいっぱいだった。彼女のことを気にしている自分。そして、それに対して素直に向き合う必要があるのだと、泉美に教えられた。


「……俺も、自分の気持ちにちゃんと向き合わないとな。」


 俺はそう心の中で呟きながら、少しずつ自分の中で答えを見つけ出そうとしていた。

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