第38話 どういう風の吹き回しか

  4人で雑貨屋を見て回る間も、良哉と泉美は楽しそうに会話をしていた。二人の息はぴったりで、まさに「お似合いのカップル」そのものだ。


 水瀬も彼らとすぐに打ち解けて、特に泉美とはあっという間に仲良くなっていた。


「このインテリア、すごく可愛いね。シンプルだけど部屋にあると雰囲気が変わりそう。」


 水瀬が手に取った小さな置物を見て、泉美がすぐに反応する。


「ほんとだね!こういうのって、部屋に一つあるだけで全然違うんだよね。さすが結花ちゃん、センス良いね!」


 二人はすっかり盛り上がっていて、俺は少し距離を取って様子を見ていた。自然と、俺の視線は水瀬に向かう。


 彼女は、クラスでの人気者ということもあり、何をしていても人の目を引く存在だ。

 彼女が楽しそうに笑う姿を見ると、俺はどこか安心した気持ちになる。


「……ほんと、すごいな。」


 思わず心の中でそう呟く。水瀬の明るさと気さくさ、そしてその魅力的な笑顔。俺が彼女に惹かれているのは間違いなかった。


 だが、その時、良哉がこっそり俺の耳元にささやいてきた。


「光、ちょっとさ、俺たち二人ずつに分かれてみようぜ。せっかくだし、結花ちゃんともゆっくり話したいだろ?」


「えっ、何を言って……」


 俺は良哉の突然の提案に驚いたが、彼の目はすでにいたずらっぽい笑顔を浮かべていた。どうやら、彼は最初からこうするつもりで計画していたらしい。


「心配すんなって。一旦まずは俺が結花ちゃんと話して、光は泉美とちょっと歩いてこいよ。」


 良哉の意図はすぐに理解できた。

 どうやら、彼は俺と水瀬を少しずつ近づけようとしているようだ。だけど、それにしても急すぎる……。でもなぜ最初に泉美との2人きりを挟むかは意図が分からなかったが。


「いや、でも、そんなの気まずいだろ……」


 俺が戸惑いを隠せずにいると、泉美が楽しそうに笑いながらこちらにやってきた。


「ねえねえ、光君。私たちも別の場所見に行こうよ!良哉君と結花ちゃんに任せてさ。」


 泉美は何かを察したように、ニコッと笑って提案してきた。どうやら、良哉と泉美は最初からこの作戦を練っていたらしい。


「……え?でも……」


 俺が言葉を詰まらせている間に、水瀬も良哉の方に歩み寄ってきた。


「どうしたの?」


 水瀬が不思議そうに問いかけると、良哉はすぐに笑顔で答える。


「いや、ちょっと俺たち二人で別行動しようかって話をしてたんだ。結花ちゃん、俺と一緒にこの辺りを見て回らない?」


「えっ、いいけど……」


 水瀬は少し驚いた様子を見せたが、すぐに納得したように頷いた。良哉の自然な提案に反対する理由もなかったのだろう。


「じゃあ光君、泉美ちゃんと一緒に別の場所見に行こうよ!」


 泉美は俺の腕を軽く引っ張り、強引に俺を誘ってくる。俺は完全に彼女のペースに引きずられ、最終的には観念して頷いた。


「……分かったよ。じゃあ、少し別行動するか。」


 俺がそう言うと、良哉は満足そうに笑いながら水瀬と一緒に歩き始めた。二人は楽しそうに雑貨屋の別のコーナーへと消えていく。


 一方、泉美は俺を連れて店の外に出て、ショッピングモールの別のエリアへと向かって歩き始めた。彼女は足取りも軽く、俺にあれこれ話を振ってくる。


「ねえ、光君って結花ちゃんと普段どんな話してるの?クラスで仲良いんでしょ?」


「いや、そんなに頻繁に話してるわけじゃないよ。最近ちょっと恋愛相談に乗ってただけで……」


 泉美は興味津々な様子で俺に質問を浴びせてくる。彼女の社交的な性格のおかげで、会話が途切れることはなかったが、俺はまだ少し緊張していた。


「でもさ、結花ちゃんってすごく話しやすい感じがするよね。光君もそう思わない?」


「そうだな……確かに、話しやすい。水瀬は、みんなに優しいし、人気もあるし……」


 俺は少し戸惑いながら答える。泉美の質問は鋭くて、なんとなく俺の気持ちを探っているように感じた。


「へえ~、やっぱり光君も水瀬ちゃんのこと気にしてるんだね。」


 泉美がニヤリと笑いながらそう言う。俺はその一言にドキッとしたが、なんとか平静を装おうとした。


「いや、別に……そんなつもりはないけど……」


「ふ~ん、ほんとかな~?」


 泉美は疑うような目で俺を見てくる。その視線が妙に鋭くて、俺は少し困ってしまった。



 ──一方、良哉と水瀬は店内を歩きながら会話を楽しんでいた。良哉は、光のことを水瀬にさりげなく尋ねるつもりで、彼女との距離を縮めようとしていた。


「結花ちゃんってさ、光のことどう思ってる?」


「えっ?」


 良哉の突然の質問に、結花は驚いて目を見開いた。だけど、彼女はすぐに微笑んで答えた。


「どうって……別に普通だよ。ただ、話してて楽しいし、クラスメイトとして普通に仲良くしてるだけかな。」


「ふーん。俺は光のこと、すごく気に入ってるんだよ。あいつ、なんだかんだで面倒見がいいし、他人の気持ちをよく考えてるやつだからさ。」


 良哉はさりげなく光の良さをアピールする。結花はその言葉を聞いて、少し考え込むような表情を浮かべた。




 ******




 こうして、俺たちはそれぞれ2人ずつに分かれて行動することになった。水瀬と良哉、泉美と俺。それぞれのペアで、少しずつ距離を縮めながら会話を楽しむ時間が流れ始めた。

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