第37話 突然のダブルデート(?)
水瀬の名前をバラされてしまった俺は、良哉と泉美にからかわれながらも、ようやく気持ちを認めた。それでも、水瀬に気持ちを伝えるなんて大げさなことはまだ考えていない。
俺はただ、彼女が気になるだけ──それ以上でも以下でもない。
「ま、でも光が誰かを気にするなんて珍しいな。これからどうするんだ?」
良哉が軽い調子でそう尋ねる。俺は肩をすくめて笑ってみせた。
「どうするって……別に何もしないよ。今はただ、彼女のことを少し知ってるだけだし、まだ何も考えてないんだ。」
そう言うと、泉美が笑いながら俺を見つめた。
「ふ~ん、そんなこと言って、実はどうアプローチするか悩んでたりしてね?」
「いやいや、そんなことはないって。」
俺は慌てて否定したが、二人の笑顔を見ると、なんだか全てが見透かされているような気がして、少し気まずくなった。
その時、ふとカフェの窓の外を見た良哉が何かに気づいたように目を細めた。
「おい、あれって……結花ちゃんじゃないか?」
「えっ?」
俺は思わず身を乗り出して窓の外を覗き込んだ。確かに、そこには結花の姿があった。彼女は一人で歩いていて、片手には買い物袋を持っている。休日に一人で買い物なんて珍しいな……と思いつつ、俺はその姿に見惚れてしまった。
「おいおい、無視するつもりか?」
良哉が俺をからかうように言うが、俺はなんとか冷静を保とうとした。
「いや……別に声をかけるほどでもないだろ。」
そう言いながらも、水瀬の姿に目が行ってしまう。
彼女は誰かと待ち合わせでもしているのか、時々周りを見回しながら歩いている。
正直、俺は気づかないフリをしようとしていたが、すでに良哉も泉美もそんなつもりはなさそうだった。
「光、今しかないぞ!」
良哉がニヤニヤしながら水瀬に向かって手を振り始めた。
「ちょ、待てよ!やめろって!」
俺が慌てて止めようとするが、良哉は全く気にせずに大きな声で呼びかけた。
「結花ちゃーん!こっちだよー!」
俺は頭を抱えた。もう逃げられない……。
水瀬は良哉の声に気づいて、こちらに向かって歩いてきた。俺は仕方なく、彼女に挨拶をすることにした。
「田中君、こんなところで会うなんて……びっくりだね。」
水瀬少し驚いた様子だったが、すぐににこやかな笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見て、俺の胸はまたドキドキしてしまう。
「うん……偶然だね。こっちは良哉と泉美さんと……えっと、今ちょっと一緒に過ごしてたんだ。」
そう言うと、水瀬は泉美に視線を向けた。
「初めまして、水瀬結花です。お二人はデート中だったんですか?」
「そうそう、でも光君が偶然いてね、なんか3人で遊んでた感じだよ。」
泉美が笑いながら答えると、水瀬も少し笑って「なるほど」と頷いた。
やっぱり彼女はコミュニケーションが上手だなと思いつつも、俺はなぜか落ち着かない気持ちになっていた。
「せっかくだからさ、結花ちゃんも一緒に遊ばない?」
良哉が突然そう提案してきた。俺は一瞬耳を疑った。さっきまで3人で遊ぶだけでも気まずいと思っていたのに、ここに水瀬まで加わるなんて……。
「えっ、いや、水瀬は……」
俺が躊躇していると、泉美がすぐに水瀬に話しかけた。
「いいじゃん、結花ちゃんも一緒にどう?このメンバーなら絶対楽しいと思うよ!」
「うん、せっかくの偶然だし、ちょっとだけなら……いいかな?」
水瀬は少し考えた後、笑顔で頷いた。俺はますます焦ってしまうが、断る理由も見つからない。まさか、こんな形で4人で遊ぶことになるとは……。
そのまま、俺たちはカフェを出て、4人で歩きながらショッピングモールをぶらつくことになった。良哉と泉美は相変わらず楽しそうに話しているが、俺と水瀬はまだぎこちないままだった。
「なんだこれ……ダブルデートなのか?」
俺は心の中でそう呟きながら、隣を歩く水瀬に少し気まずそうに話しかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます