第36話 友達カップルの鋭い眼差し

 カフェに入ってからというもの、俺は完全に良哉と泉美のターゲットになっていた。二人は俺の恋愛事情に興味津々で、しつこいくらいに質問を   投げかけてくる。


「ほんとにさ、好きな人とかいないの?」


 泉美がニヤニヤしながら問いかける。さっきから何度もその話題に触れられていて、俺はどうにかして話題を変えようとしていたが、二人は全く引き下がる様子がない。


「いや、ほんとに……別に……」


「そんなに隠すってことは、やっぱり誰かいるんでしょ?」


 今度は良哉が俺をジッと見つめる。彼のその真っ直ぐな視線に、俺は耐えきれずに目をそらしてしまった。


「……まあ、いないわけじゃないけどさ。」


 俺が観念してぽつりと言うと、二人の目が一気に輝いた。


「ほら!やっぱりいるんだ!誰、誰?教えてよ!」


「誰って……そんな簡単に言えるわけないだろ。」


 俺が少し渋い顔をすると、泉美がすぐに続けてきた。


「えー、そんなこと言わないでさ!私たちにだけでも教えてよ。別に誰かに言ったりしないからさ!」


「そうだよ、光!俺たちだけなら大丈夫だから、気にしなくていいって!」


 二人は本当に楽しそうに俺を質問攻めにしてくる。良哉も泉美も人の気持ちに敏感だし、嘘をつこうものならすぐにバレてしまいそうだった。俺は観念して、少しだけヒントを与えることにした。


「……まあ、同じクラスの子だよ。」


「おお、クラスメイトか!じゃあ、クラスの誰かだな。さぁ、もっと詳しく教えてくれ!」


 良哉が嬉しそうに身を乗り出してくる。泉美も「ふむふむ」と頷きながらさらに質問を重ねてきた。


「その子って、どんな子なの?おとなしい系?それとも元気なタイプ?」


 俺は少し考えてから、答えを口にする。


「……どちらかというと、みんなから目立つ子かな。どこにいても注目されるような、そんな感じの子。」


 その言葉を聞くと、二人は目を見合わせて意味深な笑みを浮かべた。


「ふーん、目立つ子ねぇ……」


「同じクラスで、目立つ……もしかして……」


 良哉が何かに気づいたように小声で呟いた。それを聞いて俺は一瞬ハッとした。まさか、もう察しがついたのか?


「ちょっと待って。まさかだけどさ……その子って……結花?」


 良哉がニヤリと笑いながら名前を口にした瞬間、俺は言葉を失った。頭の中で、全く違うことを考えようとしたが、水瀬の名前が出てきたことに完全に動揺してしまった。


「えっ……」


「やっぱり!光が気になってる子って、結花ちゃんでしょ!」


 良哉が勝ち誇ったように言い放つと、泉美もニコニコしながら俺を見つめてくる。


「うわ、まさかあの噂の結花ちゃんかぁ~。それは納得だね!確かにあの子、すごく綺麗だし、人気もあるもんね!」


「いや、違うって……!」


 俺は慌てて否定しようとしたが、顔が熱くなるのを感じて、二人にはもう完全にバレていることが分かった。言葉を探しながら、なんとか誤魔化そうとしたが、良哉と泉美の視線が鋭すぎて、逃げ場がなかった。


「え~、もう顔真っ赤じゃん!図星なんでしょ?」


 泉美が楽しそうにからかってくる。俺は完全にパニックに陥ってしまい、何を言えばいいのか全く分からなくなった。


「……いや、そういうわけじゃなくて……」


「いいって、隠さなくても!結花ちゃんかぁ……お前もなかなかやるな!」


 良哉が肩を叩いてきて、俺はますます居心地が悪くなった。水瀬が気になっているのは事実だが、こうして簡単にバレるとは思っていなかった。


「でもさ、光が結花ちゃんを気になってるって、なんかすごく納得できる。だって、結花ちゃんってクラスで一番人気だし、性格も良いって評判じゃん?」


 泉美がそう言うと、俺はさらに頭を抱えた。彼女の言う通り、水瀬は本当に人気者で、クラスでもみんなに好かれている存在だ。俺が水瀬を気になっているのも、ある意味当然なのかもしれない。


「いや、でも……」


 何とかして否定しようとするが、二人の笑顔を見ると、これ以上隠しても無駄だと思えてきた。


「……もう、参ったよ。確かに、結花のことが気になってる。」


 そう言うと、二人はさらに嬉しそうに笑った。


「やっぱり!ほら、最初から正直に言えばよかったんだよ!」


 良哉が楽しそうに笑い、泉美も「本当に素直じゃないんだから」と笑顔を浮かべた。俺はもう観念して、二人に負けを認めるしかなかった。


「ま、でも結花ちゃんかぁ……それはハードル高そうだな。」


 良哉が冗談めかして言う。俺もそれは承知している。水瀬は本当に人気者だし、彼女が俺に特別な気持ちを抱いているとは思えない。


「……まあ、そうだよな。でも、今はまだそんなこと考えてるわけじゃなくて、ただ気になってるだけだよ。」


 俺はそう言って自分に言い聞かせるように呟いた。だけど、二人の笑顔を見ると、これからどうなるのか少しだけ期待してしまっている自分がいることに気づいた。

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