第31話 俺告白しようと思います。いや、お前もかい
放課後、図書館で本を読んでいると、静かな足音が聞こえた。顔を上げると、そこには中村君が立っていた。
「……こんにちは」
「お、おう」
彼が自ら俺に話しかけてくるのは珍しい。少し戸惑いながらも、俺は本を閉じて彼に向き合った。
「中村君、どうした?」
中村君は少し気まずそうにしていた。まぁ前のこともあったしな。
でも彼はやがて意を決したように俺に向かって頭を下げた。
「田中先輩前はすみませんでした。先輩と優奈が話してるのを見て、勝手に誤解して……あんな態度を取ってしまって……悪かったです。」
その言葉を聞いて、俺は少し驚いた。
中村君がこうして素直に謝ってくれるとは思っていなかったからだ。
でも、彼が自分の誤解に気づき、しっかり謝ってくれたことに安心もした。
「いや、気にしなくていいよ。中村くんがそう思うのも無理はなかったし、俺もあの時、ちゃんと説明できてなかったからさ。」
俺は中村君を許すように言い、軽く笑った。
これでお互いにすっきりした気持ちになれるはずだ。
「でも……優奈のこと、マジで考えてたのに、あんな風に疑ってしまった自分が情けなくて……。先輩には改めてちゃんとお礼を言いたかったんです。あの時、話してくれて本当にありがとうございました。」
中村君は真剣な顔でそう言った。俺は彼の言葉に少し照れながらも、軽く頷いた。
「いいんだよ。中村くんと優奈が仲直りできたなら、それが一番だよ。」
中村君は安心したように息を吐いたが、そのまま黙り込んだ。
何か言いたいことがまだあるようで、少し落ち着かない様子だ。
話は終わってないのかな?
「……実は、もう一つ相談があるんですけど……」
彼はそう言って、こちらに目を向けた。なんとなく、その先の言葉が想像できた。相談?
「相談?今度は何だ?」
「……俺、優奈に告白しようと思ってます。」
中村君が静かにそう告げると、俺は思わず笑いそうになってしまった。
ちょうど同じ話を優奈から聞いたばかりだったからだ。
お互いに想い合っているのは間違いないのに、二人ともそれをまだ言葉にできていない。
可愛いな、なんてことを先輩として思った。
「君もか……」
俺がそう呟くと、中村君は少し困ったように笑った。
「えっ?君も、ってどういうことだよ?」
「いや、実はね……」
俺は少し悩んだが、優奈も同じように告白を考えていることを伝えるべきかどうか迷った。
しかし、まだ本人が告白していない状況だし、ここで余計なことを言うのも良くないと思い、口を閉ざした。
「……いや、何でもない。中村くんがそう思ってるってことなら、俺から言えることは一つだけだ。」
中村君は少し首を傾げたが、俺が何かを考えているのを察して口を閉じた。俺はそんな彼を見て、しっかりとアドバイスをすることにした。
「中村君なら大丈夫。今までのこともあるけど、優奈はずっと君のことを想ってる。それは間違いないんだから、あとは自分の気持ちを素直に伝えればいいだけだよ。」
俺がそう言うと、中村君は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに頬を掻きながら照れくさそうに笑った。
「そうか……田中先輩がそう言うなら、ちょっと安心しました。でも、やっぱり緊張するな……」
彼がそう言うのも無理はない。
告白なんて、誰だって緊張するものだ。
でも、中村君なら大丈夫だと思えた。それは、彼が本当に真の意味で優奈のことを大切に思っているからだ。
「まあ、緊張するのは当然だよ。でも、中村君がこれまで優奈に向き合ってきたことを信じればいい。素直な気持ちを伝えれば、絶対伝わるさ。」
俺の言葉に、中村君は真剣な顔で頷いた。彼も覚悟を決めたのだろう。
「ありがとうございます、田中先輩。先輩の言葉、めちゃくちゃ心強いです。俺、ちゃんと優奈に気持ちを伝えてみます。」
中村君のその言葉を聞いて、俺も少しホッとした。これで彼も優奈に告白する決意ができたようだ。俺が何か特別なことをしたわけじゃないが、少しでも彼の背中を押せたなら、それで十分だった。
「よし、頑張れよ!お前ならきっと大丈夫だ。優奈も、中村君の気持ちを待ってるはずだからさ。」
俺は軽く中村君の肩を叩いて、笑顔を見せた。中村君も照れくさそうに笑いながら、俺に軽く礼を言って立ち上がった。
「ありがとうございました。じゃあ、俺……ちゃんとやってみます。」
中村君はその言葉を残し、図書館を出ていった。彼の背中を見送りながら、俺はまた一つ仕事を終えたような気持ちになった。
「幸せになれよ、中村君……」
俺は心の中でそう呟きながら、彼の成功を祈った。中村君も、優奈も、きっとお互いの気持ちを伝え合って、これまで以上に良い関係を築いていくだろう──そんな予感がした。
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