第18話 純粋無垢な後輩からの恋愛相談
放課後、俺は図書館で静かに読書をしていると、急に気配を感じて顔を上げた。
そこには、一年生の佐藤優奈(さとうゆうな)が少し緊張した様子で立っていた。
優奈は俺の中学時代からの後輩で妹と部活が一緒だったこともあり知り合い程度ではある。
彼女は元気いっぱいのスポーツ部所属で、普段は明るくて活発なイメージだったけど、今日は何か違う。
「田中先輩……あの、ちょっと相談があるんですけど……」
優奈が恥ずかしそうに言う。
普段の純粋無垢な活発女の子!という感じの彼女とは違う雰囲気に少し戸惑いながらも、俺は相談に乗ることにした。
最近、恋愛相談を受けることが多いが、彼女がそういうことを話してくるとは意外だった。
「もちろん、何でも聞くよ。」
そう答えると、優奈はホッとした顔をして、俺の隣に座った。彼女の頬は少し赤くて、どこか落ち着かない様子だった。
「実は……気になる人がいるんです。でも、どうやって気持ちを伝えたらいいのか全然分からなくて……」
気になる人か。そういうことかと理解しつつも、彼女の初々しい相談に少し面食らった。
恋愛経験がほとんどなさそうないかにも部活一筋!みたいに見える彼女が、こんなに真剣に悩んでいるのを見て、なんだか新鮮に感じた。
「うーん……気持ちを伝えるっていうのは、難しいよな。俺もそういうの、あんまり得意じゃないんだけど」
俺が言うと、優奈は真剣に話を聞いてくれる。彼女の真剣さに少しずつ引き込まれるように、俺も考えながら答えた。
「まずは、焦らずにその人ともっと仲良くなることが大事なんじゃないかな。自分の気持ちを伝えるっていうのは、相手との距離が縮まってからの方がいいかもしれない」
優奈は真剣に頷きながら聞いてくれたが、まだ何かが足りないような顔をしている。
「でも……好きってどういうことなんでしょうか?」
不意に彼女から投げかけられたその質問に、俺は少し言葉を失った。
「──好きってどういうこと?」
そんなの俺に分かるはずがない。
俺はまだ誰かを好きになったことがないし、恋愛感情がどんなものかもはっきり理解できていない。
俺が知りたいくらいである。
「うーん……俺も、恋愛とかあんまりよく分からないんだけどさ、たぶん相手のことをいつも考えてしまうとか、そばにいたいって思う気持ちじゃないかな」
これは凛の受け入りだ。ありがとうございます凛さん。
「先輩はどうなんですか?誰か気になってる人とかいるんですか?」
ふと優奈はそんなことを聞いてきた。
突然の質問に、俺はまた少し驚いた。この子こういうところあるんだよな。純粋が故にって感じだ。
誰か気になってる人?そんなこと、考えたこともない。水瀬は……いや、俺にとっては友達だ。そう思いつつも、最近の水瀬とのやり取りが頭をよぎる。
「俺か……うーん、どうだろうな。正直、自分の気持ちにあんまり向き合ったことないから、よく分からないんだよ」
そう答えると、優奈は少し驚いたように目を丸くしていた。
「ええっ、田中先輩でも分からないことがあるんですか?いつも冷静で、なんでも知ってると思ってたのに!」
優奈の純粋な言葉に、少し笑ってしまった。自分でもあまり気づいていなかったけど、俺ってそう見られているのか。
でも、恋愛に関しては本当に分からない。水瀬に対する自分の気持ちも、まだ曖昧なままだ。
「まあ、恋っていうのは難しいよな……相手のことを気にするのは分かるけど、それが本当に好きなのかどうかなんて、自分でもよく分からない」
俺がそう言うと、優奈はさらに質問を続けてきた。
「じゃあ、もしその人が誰かとすごく仲良くしてたら、どう思いますか?」
「え?それは……」
俺は言葉に詰まりながら、水瀬が他の男の友達と楽しそうに話している姿を想像した。
これも前回凛と話したな。
もう一度想像してみるとやはり確かに胸がざわつく。
けど、今でもやはりそれが「好き」っていう感情なのかはまだ確信が持てない。
「……あんまりいい気持ちはしないかもな」
俺は素直にそう答えると、優奈は目を輝かせて「それですよ!」と言った。
「そういうのって、恋なんじゃないですか?」
「恋……なのか?」
彼女の言葉に驚きながらも、俺はすぐには答えられなかった。
恋愛なんて今まで経験がないし、水瀬に対して抱いているこの感情が「恋」だと言われても、まだピンとこない。
優奈はさらに熱心に話を続けた。
「私は、相手のことをもっと知りたいし、相手にも私のことを知ってほしいんです。でも、それがどうやって伝わるか分からないんです……どうしたらいいんでしょう?」
彼女の悩みは真剣そのものだった。
彼女の「相手に知ってほしい」という言葉を聞いて、俺も同じように思っていることに気づいた。
水瀬に対して、もっと話したいし、もっと彼女のことを知りたい──それって、もしかして恋……なのか?
「たぶん……その気持ちを大事にして、少しずつ伝えていくのがいいんじゃないかな。急がなくても、相手ともっと話す機会を作っていけば、自然と伝わるんじゃないか?」
俺がそう答えると、優奈はにっこりと笑って「ありがとうございます!」と言って立ち上がった。
「田中先輩、やっぱりすごいです!これでちょっと自信がつきました!」
彼女は元気よく図書館を出ていった。ほんとに元気だなぁ。
その姿を見送りながら、俺は再び水瀬のことを考えていた。
「俺が、水瀬のことを気にしてるっていうのは……恋なのか?」
優奈との会話を通じて、何かが心の中で変わり始めていた。
まだはっきりと「好きだ」と言い切る自信はないけど、水瀬に対して抱いている感情がただの「友達」としてのものではないのかもしれない、ということを思った。
『恋愛相談キャラ』の俺がクラス一の美少女から恋愛相談を受けていたらいつの間にか仲良くなっていた件。 やこう @nhh70270
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