第17話 凛さんのノリノリ恋愛相談室
図書館の隅で、俺は凛と向かい合って座っていた。今日はいつものラノベの話じゃなく、別の相談があって、彼女を呼び出した。
「凛、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ……最近、俺、なんか気になってるかもしれない人がいるんだよね」
俺がそう言うと、凛は一瞬不思議そうな顔をして首をかしげた。
「ん?気になってるかもしれない人?それってどういうことですか?『気になってるかもしれない』って、なんか曖昧すぎません?」
凛が少し困惑したように問い返してくる。確かに、自分で言っておきながら「気になってるかもしれない」というのは変な表現かもしれない。
でも、俺は自分の感情がよく分かっていなかったから、そんな曖昧な言い方しかできなかった。
「うーん、なんて言うか、その人と一緒にいると落ち着くし、話すのも楽しいんだけど……それが何なんだろうって思ってさ。恋とかそういうのじゃなくて、ただ気になるって感じなんだよ」
俺がそう説明すると、凛はじっと考え込むような表情をして、数秒後にはふっと笑った。
「ふふふっ……田中先輩、気づいてないんですか?それ、もう完全に恋じゃないですか!」
凛は勢いよくそう言いながら、テーブルの上に両手を広げてまるで大発見をしたかのように強調する。
俺はその言葉に驚きながらも、なんとなく信じがたかった。
「え、恋なのか?いやいや、俺は別にそんなつもりじゃなくて……ただ、気になるっていうか……」
「気になるだけって思ってるんですか?でも、相手のこと考えてる時間が増えてきたんじゃないですか?それに、相手と話す時、ちょっとドキドキしたりしません?」
凛がニヤニヤしながら続ける。俺は少し考えてみたが、確かに最近、水瀬のことを考える時間が増えていたし、彼女と話すときに妙に緊張することがある。
でも、それが「恋」だとは考えたことがなかった。
「いや、そんなことはないと思うけど……」
凛は俺の言葉を遮るように、真顔で続けた。
「じゃあ、田中先輩。もう一つ質問です。もし、その人が誰かとすごく仲良くしてたら、どう思います?」
「え?それは……」
俺は一瞬、水瀬が他の誰かと楽しそうに話している姿を思い浮かべた。それが頭に浮かんだ瞬間、胸の中に何かモヤモヤした感覚が広がった。あれは……なんだ?
「なんか……あんまりいい気持ちはしないかも。」
俺は正直に答えた。凛はそれを聞いて、ドヤ顔で机を軽く叩いた。
「ほら、出ました、完全にそれは恋の兆候ですよ、先輩!もう認めちゃいましょうよ。田中先輩、水瀬さんのこと、気になってるんじゃなくて、好きなんですよ!」
「えっ、好きって……いやいや、俺はそんな……」
自分でも信じられない言葉が返ってきた。でも、凛は真剣な目で俺を見ている。
なんだかこいついつにも増してノリノリだな。
そして、彼女の言葉を振り返ってみると、確かに今の俺の行動は「好き」っていう感情に当てはまるのかもしれない。
「でも、俺、恋なんてしたことないし……どうすればいいんだよ?」
「もう、簡単なことです。その人と一緒にいたいって思うなら、それが恋です!あとは素直にその気持ちを認めることが第一歩なんですよ、先輩!」
凛は明るく言い放ち、まるで恋愛指南書を読んだかのようなテンポでアドバイスをくれる。
その勢いに押される形で、俺は少しずつ自分の中で芽生え始めた感情に向き合わざるを得なくなっていた。
「俺、水瀬のこと……好きなのか……?」
自分の言葉を呟いた瞬間、凛は満面の笑顔を見せた。
「はい、正解!それで今すぐ告白とかする必要はないですけど、まずはその気持ちを大事にしてください。恋って気づかないうちに始まるものなんですよ」
確かに、彼女のことを考えるたびに心がざわつくし、誰かと親しくしているのを見ると不安になる。それって、恋なんだな……。
いや、でもそうなのだろうか、これは俺がこの気持ちを認めたくなくてムキになっているだけなのか、本当は別の感情なのか。
俺はこの気持ちを、恋心だと断言することが出来ない。
「ありがとな、凛。なんだかモヤモヤが晴れた気がするよ」
俺が感謝の気持ちを込めて言うと、凛は明るい笑顔で頷いた。
「どういたしまして!田中先輩、そういうことなら、これからも全力で応援しますから!」
凛はそう言って、大げさに親指を立てて見せた。彼女の明るさと元気さに、俺も少し笑ってしまう。
凛の言う通り、すぐに何かをする必要はないけど、水瀬に対しての接し方は少しずつ変わっていくかもしれない。
「……まあ、焦ることはないか。」
そう自分に言い聞かせながら、俺は凛との会話で心が軽くなったことに感謝しつつ、水瀬のことをもう一度考え始めた。
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