第16話 俺は恋なんて分からない
放課後、いつものように家に向かって歩いていると、頭の中にふと水瀬の顔が浮かんだ。
最近、彼女と一緒に過ごす時間が増えたような気がする。恋愛相談という形で何度も話をしているけれど、彼女が誰のことを気にしているのか、俺にはまだはっきりと分かっていない。
「俺、恋したことなんてないからな……」
そう思うと、少しだけ胸が苦しくなった。
水瀬は、恋愛のことについていつも悩んでいて、俺はその相談に答える役目をしてきた。
それに対して何の疑問も持たなかったけれど、最近になって、なぜか彼女のことを考える時間が増えてきている。
「俺が気にしてるってことなのか……?」
そう思いながらも、答えが見つからない。
だって、俺は今まで一度も誰かを「好きだ」と思ったことがない。
恋愛なんて、自分とは無縁のものだとずっと思ってきた。
だからこそ、水瀬が誰かに対して抱いているのかもしれない、これから抱くことになるかもしれない「好き」という感情が、どういうものなのか理解できない。
水瀬はいつも真剣に話を聞いてくれるし、俺も彼女の悩みに答えたいと思っている。
それが「友達」としてなのか、それとも……それ以上の何かを感じているのかは、まだ自分でも分からない。
「どうして、こんなに考え込んでるんだろう?」
俺は今まで、誰かを好きになるなんて考えたことがなかった。
だから、こうして水瀬のことを考えている自分に戸惑っている。彼女と一緒にいる時間は楽しいし、もっと彼女のことを知りたいと思っている──でも、それが恋なのかどうかは分からない。
思い返せば、水瀬は俺に対していろいろな相談をしてきた。
「その人との距離を縮めたい」とか、「どうやって気持ちを伝えたらいいか分からない」とか、彼女の言葉はいつも漠然としているけれど、どこか真剣さが伝わってきていた。
「もしかして、水瀬が話している『その人』って……」
俺は自分の考えに驚いて足を止めた。まさか、水瀬が俺のことを──いや、そんなはずはない。
彼女が俺に恋愛相談をしているんだから、俺がその相手であるわけがない。
「でも、もし……」
もし、水瀬が俺にそういう感情を抱いているのだとしたら……俺はどうすればいいのだろうか?
そんなことを考えれば考えるほど、自分が何を感じているのかが分からなくなってくる。
そもそも、俺は恋愛なんてしたことがないし、恋という感情がどんなものなのかも理解できない。
「……わからない。」
水瀬のことを考えるたびに、答えの出ない疑問が頭をぐるぐる回っていた。
家に着くと、ベッドに倒れ込んで天井を見つめた。
頭の中には、水瀬の顔が浮かんだり消えたりしている。彼女との関係は「相談役」としてのものでしかない──そう思い込んでいたけれど、もしかしたらそれは俺がそう感じているだけで、彼女は違うのかもしれない。
「恋って、こんなにわからないものなのか……」
どうしても、自分の気持ちに向き合うのが怖い。
水瀬のことをどう思っているのか、自分でもはっきり分からないし、もし自分が彼女を好きだと気づいたとして、どうすればいいのか全く分からない。
「──凛に相談してみよう」
ふと思い浮かんだのは、凛のことだった。彼女とは趣味が合うし、何でも気軽に話せる友達だ。恋愛のことについても、凛なら冷静に聞いてくれるんじゃないかと思った。
凛は俺にとって、「趣味の合う友達」という関係が心地いい。
彼女との会話は自然で、気を使うこともない。だからこそ、こういった悩みも気軽に相談できるはずだ。
「凛なら、何かアドバイスをくれるかもしれない」
俺は、スマホを取り出して凛にメッセージを送ることにした。
「凛、ちょっと相談したいことがあるんだけど、今度いいかな?」
送信ボタンを押した瞬間、少しだけ心が軽くなった気がした。
凛と話してみれば、少しは自分の気持ちに向き合えるかもしれない。恋愛のことは全く分からないけれど、まずは誰かに話してみることが大事だ。
そして、水瀬との関係についても、少しずつ自分の気持ちを整理していけたら──そう思いながら、俺はベッドで目を閉じた。
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