第14話 ストレートに言わないと伝わらないよな

今日は放課後、図書館で水瀬と待ち合わせをしていた。水瀬が恋愛相談をしてくるのはもう慣れていて、俺もよく彼女の悩みに答えてきた。


 正直、俺自身は恋愛経験がほとんどないから、いつも少し冷静すぎるアドバイスになってしまうかもしれないけど、水瀬が頼ってくれるのは嬉しい。


「田中君、今日もまた相談があるんだけど……いい?」


 水瀬は少し照れくさそうに俺を見てそう言った。


 いつもと変わらない彼女の相談だろうと思いながら、俺は頷いた。


「もちろん。なんでも話してよ。」


 そう答えると、水瀬は深く息を吸い込んで話し始めた。


「実は……その人と最近、少しだけ距離が縮まった気がするんだ。でも、どうやってもっと踏み込めばいいか分からなくて……」


 水瀬の話はよくある恋愛相談の一つだった。


「気になる相手」との距離が少し縮まったけれど、それ以上どう進めていいのか悩んでいる──まあ、俺もその気持ちは分からなくもない。

 俺は冷静に状況を分析して、アドバイスを考え始めた。


「そっか。だったら、まずはもう少し相手に自分の気持ちをさりげなく伝えてみたら?焦らず、少しずつでいいから、相手に自然な形でアプローチしていくのがいいと思うよ」


 俺がそう言うと、水瀬はじっと俺の顔を見つめた。

 少し頬が赤くなっているような気がしたが、その事は特に気にせず話を続けた。


「田中君はどう思う?誰かに気持ちを伝えるなら、どうやって伝えるのが一番だと思う?」


「うーん、俺だったら、やっぱり直接伝えるのが一番かな。遠回しにしても相手に伝わらないかもしれないし、ストレートに言うのが一番分かりやすいんじゃない?」


 俺は素直に答えた。自分が気持ちを伝えるなら、


 変に遠回しにするよりも、正面から伝えるのがいいと思う。それが一番誠実なやり方だと考えている。


 水瀬はそれを聞いて、少しだけ俯きながら頷いた。


「そっか……田中君、ありがとう。もう少し頑張ってみる」


 彼女は微笑んでくれたけど、何か言い足りないような表情だった。

 俺はいつものように、アドバイスを送って彼女の悩みを解決したつもりだったけど、どうも彼女の反応がいつもと違う気がした。


 そこでふと、凛のことが頭に浮かんだ。

 図書館で一緒にラノベを読んだりすることも多い凛とは、よく話が弾む。

 彼女とは趣味が合うから、気軽に話せる友達だ。ラノベやアニメの話題ならいくらでも話せるし、気を使わずにいられる相手。


 俺にとって、凛は「同じ趣味を共有できる友達」で、それ以上でもそれ以下でもない。


 水瀬もきっと、同じように誰かと気軽に話せる相手がいればいいんじゃないかと思うんだけど……まあ、俺の恋愛相談なんかがどれだけ役に立っているのかは分からないな。




 ******




 図書館を出た後、私は一人で帰り道を歩きながら、心の中がモヤモヤしているのを感じていた。


 今日こそ、田中君に私の気持ちをそれとなく伝えようと思っていた。


 恋愛相談という形で「その人にアプローチしたい」という話をした時、彼に少しでも気づいてほしかった。私が「その人」として田中君を思っていることに、気づいてくれるんじゃないかって。


 でも──全然伝わってない。


「あれ、なんか思ってた感じと違うな……」


 田中君はいつものように冷静にアドバイスをくれたけれど、彼はまるで自分が「その人」だとは考えていないみたい。

 私が「もっと距離を縮めたい相手」が田中君だってこと、全く分かってないんだろうな。


 私はため息をつきながら、彼とのやり取りを思い返す。

 田中君は優しいし、真剣に話を聞いてくれる。だけど、それがあまりに「友達として」接している感じだから、どうしても自分の気持ちが届いていないように思えてしまう。


「どうして気づいてくれないの……?」


 彼に「直接伝えるのが一番だよ」って言われた時、本当はその言葉をそのまま彼に返したかった。


 私も彼に、自分の気持ちを直接伝えたい。でも、それができないから遠回しに相談の形で話しているのに、彼はそのことに全然気づいていない。


 そして何より──凛さんのことも気になる。


 最近、田中君と凛さんが図書館で一緒にいるのをよく見かける。彼らは趣味が合うから自然に仲良くしているのかもしれないけど、二人の楽しそうな姿を見るたびに胸が苦しくなる。


「私も、あんな風に田中君ともっと気楽に話したい……」


 凛さんと田中君が話している時の、あの笑顔。


 私は「相談役」としてしか彼に頼れないけれど、彼は凛さんとは違う姿を見せているように感じる。


 彼が凛さんに特別な感情を持っているわけではないことは凛さんのことを彼に話した時の反応で分かっていた。

 でも、あの二人の距離感を見ていると、どうしても焦ってしまう。


「もっと、はっきり伝えなきゃ……」


 このまま「相談役」として田中君に接していたら、いつまで経っても彼に気持ちを伝えることはできない。遠回しに相談しているだけじゃ、彼は絶対に気づかない。


「次こそ……もっとはっきり、ちゃんと伝えよう……」


 私は心の中でそう決意した。


 田中君にもっと私のことを見てもらうために。


 もっとはっきり自分の気持ちを伝えなきゃ。このままじゃ、何も変わらない。頑張れ、水瀬結花。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る