第13話 気づいてしまった本当の想い
放課後、教室の窓際で一人ぼんやりと外を眺めていた。
空はオレンジ色に染まり、外では部活のワイワイとした声が響いている。
最近、何をしていても頭の中にはいつも田中君のことが浮かんでくる。
最初はただの友達だった。いや、友達ですらなかったかもしれない。
私が彼に頼るようになったのは、「相談」という形で話しかけるようになってからだ。
最初は本の興味本位だった。嘘の相談だった。
恋愛相談をしていると、田中君はいつも真剣に耳を傾けてくれた。感情的になることなく、冷静に物事を分析してくれて、そのたびに「この人は本当に人の気持ちを考えられる人なんだな」って感じた。
それが、最初のきっかけだったんだと思う。
田中君に相談を持ちかけると、いつも安心できた。
彼の話し方は穏やかで、こちらの悩みを決して軽視しない。そして何より、彼は誰の話でも親身になって聞いてくれる。
自分自身の恋愛経験が少ないと言いながらも、相手の気持ちをちゃんと理解しようとしてくれる姿勢に、私は自然と引き込まれていった。
それに気づいたのは、凛さんと彼が楽しそうに話しているのを見た時だった。あの時、胸がキュッと締め付けられたような気持ちになった。
「なんで……こんなに苦しいんだろう?」
その瞬間、自分でも分からなかった。
でも、今はなんとなく理解している。あれは、嫉妬だったんだと思う。
田中君が誰かと親しくしている姿を見るだけで、私は不安になってしまう。彼が私以外の誰かと楽しそうにしているのが、嫌だった。
「私……田中君のこと、好きなのかもな……」
それは突然の気づきだったけれど、同時に納得のいく答えでもあった。
ずっと私は田中君に対して「相談役」としての役割を押し付けていた。でも、それだけじゃなくて、もっと彼と話したい、もっと彼のことを知りたいという気持ちが日に日に強くなっていた。
そして、私はそれと同時に彼を「知りたい」と思うだけじゃなくて、彼に「私のことを知ってほしい」と思うようになっていた。
田中君は、自分のことをあまり話さないタイプだ。
いつも誰かの話を聞く側に回り、自分の感情は後回しにしている。そんな姿を見るたびに、私は彼のことをもっと知りたいと強く思うようになった。
彼はどんなことに悩んでいて、何を考えているんだろう?好きなことは何で、嫌いなことは何なのか?
「知りたいな……」
でも、それだけじゃ足りない。
田中君にただ「知りたい」って思うだけじゃ、私の心は満たされない。
今はもっと、私自身のことを彼に知ってほしい。
私がどんな気持ちで彼に相談してきたのか、どうして彼と話すのがこんなに大切なのか──彼に知ってほしい。
「相談役」として彼に頼るだけの関係じゃなくて、私自身をちゃんと見てもらいたい。そう思った。
これまで、私はずっと田中君に頼ってきた。
恋愛相談という形で、彼に話しかけて、その優しさに甘えていた。
でも、それじゃダメだ。私自身の気持ちを、彼に伝えなきゃいけないかもしれない、そう思った。
田中君が他人に対して真剣に接する姿を見ているうちに、いつの間にか彼を少し特別な存在として意識するようになった。
「田中君、もっと私のことを知ってほしい。」
そう考えると、胸が少しだけ軽くなった気がする。
自分の中に閉じ込めていた気持ちを、ようやく自覚できたからかもしれない。
今までは「相談」という形でしか彼に話しかけられなかったけれど、これからは、もっと素直な自分を見せていこう。
私は、田中君のことが好きなのかもしれない──そう思えた瞬間、少しだけ勇気が湧いてきた。
──でも、どうやって伝えればいいんだろう?
田中君は、きっと鈍感だ。
彼は誰に対しても優しいし、誰の話にも真剣に耳を傾ける。
だからこそ、私がどれだけ彼のことを好きかを伝えるのは簡単じゃない。言葉にしなければ、きっと田中君は気づいてくれないだろう。
「どうやって伝えよう……?」
それが、今の私の一番の悩みだった。
彼に気持ちを伝えたいけど、何も変わらないまま「相談役」としての関係が続いてしまうのは嫌だ。勇気を出さなきゃ。
「もっと、ちゃんと伝えよう。」
私が彼のことをどう思っているのか、そして私が何を望んでいるのか。
彼にとって「相談相手」以上の存在になりたい。彼にとって今みたいな少し変な関係性じゃなく、少しでも今より特別な存在になりたい。
心の中で決意が固まった。
その夜、私は自分の気持ちを整理しながら、ベッドに横たわった。
頭の中は田中君のことでいっぱいだ。これからどうやって彼に自分の気持ちを伝えていこうか。焦る必要はない。少しずつ、でも確実に、私は自分の想いを彼に伝えていく。
「田中君……私の気持ち、気づいてくれるかな?」
目を閉じると、彼の優しい笑顔が浮かんでくる。
その笑顔を見ていると、不安は消えていく。きっと、私が勇気を出せば、彼もちゃんと応えてくれる──そんな希望が胸の奥で輝き始めた
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