第8話 図書館にて後輩オタク仲間
放課後、俺は一人で図書館に向かっていた。
最近、水瀬との距離が少しずつ近づいてきていることに喜びながらもその一方で俺は戸惑いを感じていた。
まだ自分の気持ちに整理がつかないままであったので、ひとまず心を落ち着けたかった。
図書館はいつもと変わらず静かで、空気がひんやりと澄んでいる。
俺はいつものお気に入りの席に座り、カバンの中からラノベを取り出した。
このシリーズはずっと読んでいるやつで、少し読み進めてリラックスしたかった。
ページを開いてしばらく経った頃、ふと誰かがこちらをじっと見ている気配がした。
顔を上げると、少し離れたところに見覚えのある小柄な女の子が立っていた。
「凛……?」
「田中先輩、久しぶりです」
その少し落ち着いたような声を聞いて思い出した。
彼女は
俺の中学時代の後輩で、同じラノベ好きという共通点があった。
中学の図書館でよく会い、たまにお互いの推し作品について語り合ったこともあったが、高校に入ってからはあまり接点がなかった。
「久しぶりだな。ここで会うのは初めてだよね?」
「はい。今日は久しぶりに図書館に寄ってみたんです。……それに、田中先輩を見かけたので話しかけようと思いまして」
凛は少し恥ずかしそうに微笑みながら、俺の持っているラノベに目をやった。俺が何を読んでいるのか、すぐに気づいたようだ。
それに気づいた瞬間凛はパーッと目を輝かせた。
「あ、それって『転生魔導士の異世界冒険』ですよね?私もこの前、最新刊を買いました!」
凛が嬉しそうに話し始めたことで、俺は少し驚きつつも、懐かしい気持ちになった。
中学時代、彼女とよくラノベの話をしていたことを思い出した。
「ああ、そうなんだ。俺も今ちょうどその最新刊を読んでたところだよ」
「そうなんですね。今回の展開、すごく面白いですよね!主人公が新しい仲間と出会って、さらに強くなっていくシーン、すごく熱くて……」
凛の目がキラキラと輝いているのが印象的だった。
彼女は中学の頃からラノベに熱中していて、推しキャラや展開について語る時は、普段の落ち着いた様子が消えて情熱的になる。
今もその様子は変わっていないらしい。
「確かに。あの仲間との出会い、すごくよかったよな。主人公の成長がしっかり描かれていて、読み応えがあるっていうか……」
俺も自然と凛との話に引き込まれていった。
ラノベの話をしていると、日常の細かいことは忘れて没頭できる。凛との会話も、中学時代のように気楽な雰囲気に戻っていた。
しばらくラノベについて話した後、ふと凛が少し真面目な表情を見せた。
「田中先輩、ここでよく本を読んでるんですか?」
「ああ、まあそうだね。静かで集中できるからさ」
「……私も図書館に来ようかな。田中先輩と、またこうして話せるの、楽しいですし」
凛はそう言って、控えめに微笑んだ。
彼女は大人しそうに見えるけど、話し出すと意外に情熱的で、純粋に自分の気持ちを伝えるところがある。
「またいつでも話そうよ。俺も、ラノベの話をする相手ができて嬉しいし」
そう答えると、凛は少し頬を赤らめながら「ありがとうございます」と小さな声で言った。
彼女はどこか照れた様子で、それでも真剣に俺を見つめていた。
少し間が空いた後、凛が突然話題を変えた。
「田中先輩って、最近どうですか?友達とか……恋愛とか、いろいろ。」
その質問に、俺は少し戸惑った。
凛が恋愛について話すのは意外だったし、なんとなく今の俺の状況を察しているように思えたからだ。
「うーん、まあ、友達の相談に乗ったりはしてるけど、特に恋愛とかはあんまり……」
「そうなんですね……。先輩、いつも他の人のことを考えてますよね。でも、先輩自身のことも、ちゃんと考えてあげてほしいなって……ちょっと思います」
凛の言葉は、穏やかで優しかったが、どこか俺の内面にまで踏み込んできたような気がした。
俺自身、友達の相談には一生懸命乗っているけど、自分の気持ちにはあまり向き合ってこなかったのかもしれない。
「ありがとう、そうだな……。凛のいってることめちゃくちゃ的確すぎて何も言えないや。俺も、自分のことをちゃんと考えないといけないかもな」
俺は彼女の真っ直ぐな言葉に少し驚きつつ、感謝の気持ちを抱いていた。
凛は本当に純粋な子で、誰かのために考えてくれる優しさがある。
「私、田中先輩とまたこうやってお話できて嬉しいです!」
凛は少し照れながら、でも真剣な目でそう言った。俺はその言葉に、また少し戸惑いを感じた。
「そうだったんだ……。ありがとう、俺も凛と話すの楽しいよ」
俺は少しぎこちなく返事をしたが、凛の気持ちがしっかりと伝わってきた。
彼女と趣味の話が出来て元気もチャージ出来た。残りの今日もいい日になりそうだ。
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