第1話 クラス一の美少女からの恋愛相談

俺、田中光たなかひかるは放課後の教室で、いつものように教科書を片付けながらぼんやりと考えていた。


 次に誰が恋愛相談に来るだろうか、そんなことをぼーっと一人考えていた。


 ──最初の恋愛相談はイケメンなサッカー部のエース南良哉みなみりょうやからのものだった。


 一年の時最初の席で隣になった俺たち。正直彼の圧倒的な主人公オーラにビビっていたが、彼はそんな俺にも優しく話しかけてくれる『真の陽キャ!』みたいなやつだった。

 席が隣ということもあり自然と彼の恋愛相談に乗ることになった。


 そしてなんか相談に乗っていた良哉の恋愛がうまくいったのだ。俺たちはとても喜び合った。一年以上がたった今でも彼らはお似合いカップルとしてその関係が続いている。


 そのようなことがあったとき、彼が俺をよく言ってくれたようで、それからというものの最初は良哉の知り合いから恋愛相談が始まり、今ではある程度の人がうわさを頼りに俺のもとに相談をしに来るようになった。

 最初戸惑いはしたものの、単純に他人の恋愛話は興味があったし、なんだか信頼されているようで俺も悪い気はしなかった。その信頼にこたえてやりたいとさえ思った。

 それが俺の『恋愛相談キャラ』としての始まりだった。




 ******



 そしてある日の放課後。

 教室で後ろから声をかけられた。


「田中君、ちょっといい?」


 俺は驚いて振り向くと、そこにはクラス一の美少女、水瀬結花みなせゆいかが立っていた。

 長い黒髪と澄んだ瞳が印象的な彼女は、まさに男子の憧れそのものだ。俺に話しかけてくるなんて、珍しいことだなと思った。


「どうした?」


 軽い調子で返したが、内心は少し緊張していた。彼女が俺に何の用事があるのか、まったく予想がつかなかったからだ。


「実は、相談したいことがあって……」


 水瀬は少し照れたように視線を下げた。その仕草がまた、彼女の可愛らしさを引き立てているように思えた。


「恋愛のことなんだけど……」


「ああ、なるほど」


 やっぱりか。

 クラスの男子の誰かに恋をしているのだろう。これまでにも、彼女が誰かに恋しているという噂はちらほら聞いたことがある。彼女もついに俺に相談を持ちかけてきたんだ、とすぐに察した。


「うん、わかった聞かせてくれよ。どうやったら上手くいくか、一緒に考えよう。」


 いつものように、冷静にアドバイスをする準備を整える。だが、次の瞬間、俺の想像はあっさりと裏切られた。


「好きな人がいるんだけど……どうすれば田中君、あなたに振り向いてもらえるかな?」


 一瞬、頭の中が真っ白になった。


「え、俺?」


 そう聞き返すしかなかった。

 俺自身が、相談されている恋愛の対象だなんて、考えたこともなかったからだ。水瀬はいたずらっぽく笑いながら、真剣な目で俺を見つめていた。


「そう、田中君なんだ。いつも他の人の恋愛の相談に乗ってくれるけど、自分のことはどうなのかなって思って。」


 彼女の言葉は冗談のようでありながらも、どこか本気を感じさせるものだった。俺は何を言えばいいのか分からなくなった。


「いや、俺、そんなつもりは……」


 しどろもどろになりながら答える。水瀬は俺をからかっているのか? それとも本気でそう言っているのか? どちらにしても、これまで経験したことのない状況だった。

 しかしそんな俺をよそに水瀬はくすっと笑った。


「冗談よ、冗談。でも、恋愛相談には変わりないの。好きな人がいて、その人にどうやって振り向いてもらうか、アドバイスしてほしいんだ。」


 水瀬は冗談めかして笑いながらも、どこか本気の表情を浮かべていた。


「なんだよ、驚かすなよ……」


 俺は、彼女がからかっているわけではないと感じたが、俺を好きなわけでもないと思った。

 もしかしたら、彼女は本当に別の誰かに恋をしているんだろう。でもわざわざ俺に相談してきた意図が分からない。友達の相談すればよいのではないか、そう思ったがいくら考えても分かりそうにないので、その思考は放棄した。


「そっか。誰か好きな人がいるんだな。うん、分かった。どうやってアプローチするか一緒に考えよう」


 そう答えながらも、胸の奥が少しざわつくのを感じていた。

 水瀬の相談を真剣に受け止めつつも、どこか心の片隅で、彼女が俺を好きだと言った時の言葉が頭から離れなかった。


 でも、そんなことはありえない。俺はあくまで『恋愛相談キャラ』の友達で、それ以上でも以下でもないのだ。

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