第2話: 森での出会い
スローライフを楽しむ日々が続く中、今日は少しいつもと違う気分だった。家もほぼ完成し、生活の基盤も整ってきたことで、何となく「探検してみようか」という気持ちが湧いてきた。まだまだエルシルの森のすべてを把握しているわけではないし、新しい発見があるかもしれない。
「さて、今日は少し奥の方まで歩いてみようか。」
いつもより少し軽めの装備で、森の中へと足を踏み入れる。森の中は相変わらず静かで、木々が風に揺れる音や鳥のさえずりが心地よく耳に響く。この静けさと自然の調和が、俺の心を落ち着かせてくれる。
「やっぱり、この森はいいな。何もかもが静かで、誰にも邪魔されない時間が流れてる。」
しばらく歩きながら、森の様子を観察していると、ふと何かの気配を感じた。動物か? いつも通りの森の音とは違う、微妙な気配だ。足を止め、耳を澄ませてみる。すると、草むらの中からかすかな音が聞こえてきた。動物の気配だ。
「なんだろう? 鹿とかかな?」
慎重に近づいてみると、草の間から小さな生き物がちらっと見えた。ふさふさとした毛並み、小さな体。そして、キラリと光る瞳。
「……なんだ、あれ? 犬みたいだけど、違う……?」
姿形は子犬のようだが、どこか普通の犬とは違う雰囲気を感じる。その生き物は俺の存在に気づいているらしく、じっとこちらを見つめて動かない。俺もその視線を受けながら、ゆっくりと膝をついて、彼と同じ目線になるように近づいた。
「お前、ここで何してるんだ?」
声をかけても当然返事はないが、その生き物は警戒心を少しも緩めないまま、じっとこちらを見ている。俺は手を差し伸べてみたが、反応はなく、ただ見つめているだけだ。
「うーん、少し警戒されてるか……まあ、突然こんな奴が現れたら、そりゃ警戒もするか。」
じっとその生き物を観察しながら、どうやって距離を縮めるか考えていると、ふとその耳がピクリと動き、少しずつ草むらから体を出してきた。その姿がしっかりと見えるようになると、彼の体の特徴が分かってきた。白と灰色の美しい毛並みに、少し鋭い瞳。でも、どこか人懐っこそうな雰囲気もある。
「すごい……お前、めちゃくちゃ綺麗だな。」
俺はそう言いながら、手を差し出し続けた。少しずつ彼がこちらに興味を持ち始めたのか、匂いを嗅ぎ始め、ゆっくりと近づいてきた。そして、ついに俺の手に鼻を押し付けるようにして匂いを確かめ始めた。
「そうそう、怖くないだろ? 大丈夫だから。」
少しずつ安心したのか、俺の手のひらに鼻をすり寄せるようにしてくる。そして、俺も恐る恐るその頭を撫でてみた。毛並みはふさふさで、柔らかく、とても触り心地が良い。
「おお、すごいな、お前。なんて気持ちいい毛並みだ。」
撫でられる感触が気に入ったのか、その生き物は目を細めて、リラックスした様子を見せた。その姿に俺もほっと安心し、少しずつ距離が縮まっていく。
「お前、名前とかあるのかな……? まあ、こんな森の中だから、名前なんてないかもな。」
しばらく撫でていると、ふと名前をつけたくなった。この美しい毛並みと、森に溶け込むような優雅な姿を見て、すぐにいい名前が浮かんだ。
「エルム……どうだ、エルムって名前は?」
俺がそう呼びかけると、エルムは耳をピクリと動かし、俺を見上げた。どうやら気に入ってくれたようだ。その反応に思わず笑みがこぼれた。
「よし、今日からお前はエルムだ。よろしくな。」
エルムはその名前にすっかり馴染んだようで、俺の周りをくるくると回り始めた。まるで新しい仲間ができたことを喜んでいるかのようだ。そんなエルムの姿に、俺の心も軽くなった。
その後もエルムと一緒に森を歩いて回った。エルムは時々草むらに顔を突っ込んで何かを探していたり、走り回って楽しそうにしていた。
「エルム、お前、本当に元気だな。見てるこっちまで楽しくなるよ。」
エルムは俺の声に反応して、嬉しそうに尻尾を振りながらこちらを見上げた。その姿があまりにも愛らしく、俺は思わず笑ってしまった。
「お前も一緒に、この森でスローライフを楽しむか?」
俺の言葉に、エルムはまた耳をピクリと動かし、軽く吠えた。どうやらその提案に賛成のようだ。俺はエルムと共に歩き続け、しばらく森の中を探索していた。
しばらく歩いていると、エルムが突然足を止めた。何かを感じ取ったのか、じっと耳を立てて警戒している。
「どうした、エルム?」
俺も周囲を見渡したが、特に危険はなさそうだ。だが、エルムはまだ何かを感じ取っているようで、動かない。その警戒心に少し不安を覚えたが、すぐにエルムは安心した様子でこちらに戻ってきた。
「なんだったんだろうな……まあ、気にすることじゃないか。」
俺はエルムを撫でてやりながら、その場を離れることにした。エルムが感じた何かが、ただの動物の気配だったのか、それとも別の何かだったのかは分からないが、とりあえず危険はないと判断した。
家に戻ると、エルムはすっかり俺の足元に座り込み、まるでこの家が自分の居場所だと言わんばかりにくつろいでいた。
「エルム、これからここが俺たちの家だ。気に入ってくれたらいいんだけどな。」
エルムはその言葉に応えるように軽く尻尾を振り、目を細めてリラックスしている。その姿に俺はまた笑ってしまい、彼との新しい生活に期待を膨らませた。
「これで、俺のスローライフもさらに充実するな。」
エルムとの出会いは、俺の異世界生活に新たな喜びをもたらしてくれた。この森で、これからどんな新しい発見があるのか、エルムと一緒に楽しんでいこうと思った。
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