第1章: 森の生活とエルムとの出会い

第1話: 異世界での静かな暮らし


 俺、颯太は、異世界の広大なエルシルの森でついに住む場所を完成させ、しっかりと根を下ろした。時間が経つのは驚くほど早い。この異世界に来てから、少しずつだが着実にスローライフを築き上げてきた。もう、異世界の驚きも慌ただしさも過ぎ去り、今はただ穏やかな時間が流れている。


 家はまさに理想の住まいだった。無限素材創出と瞬間クラフトのスキルを使い、木材や石を生み出して、必要な家具も次々と作り出してきた。大きくはないが、コンパクトで機能的な設計だ。リビングは広く取って、日差しが差し込むように大きな窓を作り、寝室は森の音がよく聞こえる位置にしておいた。天気の良い日には、窓を開け放って森の風を感じながら、スローな時間を過ごすことができる。


「ふう……これで大体、生活に必要なものは揃ったな。」


 俺は椅子に座り、出来上がった家の中を見渡して満足げに息を吐く。広々としたリビング、落ち着いた木の香り、そして窓から見えるエルシルの森の木々。すべてが静けさと調和していて、心を落ち着かせてくれる。


「本当に、まさか異世界でこんな生活ができるなんて思わなかったよな……」


 自分で作り上げた住まいに浸りながら、軽い冗談めかして独り言を呟く。この世界に来たときはどうなることかと思ったが、今や不安は一切ない。ここでは何でも自分の手で作り出せる。俺のスキルは、日々の生活を支える最大の武器だ。


 朝の陽射しが部屋を満たし、鳥のさえずりが静かに響く。毎朝の光景だが、飽きることはない。エルシルの森は本当に静かで、美しい。


「よし、今日も少し外を回ってみるか」


 俺は簡単な朝食を済ませ、森の中へと歩き出した。特に目的はない。けれども、こうして自然の中を歩いていると気分が晴れるし、何か新しい発見があるかもしれない。幸い、この森には危険な魔物もほとんどいないらしい。それもあって、安心して散歩できる。


「スキルもあるし、もし何かあったら対処できるだろうけど……平和が一番だよな」


 周囲の静けさを感じながら、森の小道を進む。道端には様々な植物が茂り、時折、風に揺れる葉の音が心地よい。ふと立ち止まり、木々を見上げた。高くそびえる樹木の間から漏れる光が美しく、自然の偉大さを改めて感じる瞬間だ。


 家に戻り、リビングのテーブルに着くと、再びクラフトの作業を始めた。今は特に急ぐ必要はないが、少しずつ家の中を改善していくのは楽しい作業だ。


「次は、棚でも作ってみるか……無限素材創出で木材を……」


 俺はスキルを発動し、目の前に木材が瞬時に現れる。それを手に取って、形を整えながら、瞬間クラフトで棚を組み立てる。作業はすぐに終わり、出来上がった棚を壁に取り付けると、ますます家の中が充実していくのが感じられる。


「これで、もっと物を整理できるな……あ、そうだ、次は食器棚も作らなきゃな」


 自給自足の生活が順調に進んでいるのを実感しながら、次々とアイデアが湧いてくる。スローライフというのは、ただのんびり過ごすことだけではない。自分の手で何かを作り上げていく喜びがある。


 午後、ひと段落ついたところで、再び外に出た。天気が良く、空は澄み切っている。風が少し強くなってきたが、心地よい涼しさを感じさせてくれる。


「よし、少し森の奥まで行ってみようか」


 いつもは家の周りで過ごすことが多いが、今日は少し冒険してみることにした。まだあまり奥には入っていないエルシルの森の探索だ。俺が住むエリアは比較的開けた場所だが、森の奥に行くと、木々がもっと密集していて、さらに静かになるらしい。


 森を歩いていると、いつもとは違う植物が目に入ってきた。葉っぱがやけに大きい樹木や、根元が曲がりくねった木など、見たことのないものばかりだ。俺はその一つ一つを観察しながら歩き続けた。


「おお、これはまた珍しい……」


 ふと足を止め、目の前に咲いている花に目を留めた。鮮やかな紫色の花が、周囲の緑の中で異彩を放っていた。その美しさに思わず手を伸ばそうとしたが、何となく危険を感じて止めた。


「ん……この世界、まだ何があるか分からないし、迂闊なことはしないほうがいいな」


 俺は慎重にその花を避けて、再び歩き始めた。冒険も大事だが、安全第一がモットーだ。のんびりと歩き続けていると、ふと耳を澄ましたとき、鳥の鳴き声が聞こえてきた。心地よい鳴き声で、なんだか心が落ち着く。


「この世界、意外と悪くないかもな……」


 そうつぶやきながら、俺は森の中をゆっくりと歩き続けた。エルシルの森はまだまだ俺に多くの驚きと楽しみを与えてくれるだろう。それを思うと、自然と顔がほころんだ。


 夕方、家に戻ると、再び静かな時間が訪れた。外は少しずつ暗くなり、森の中から虫の音が聞こえてくる。リビングのランプに火を灯し、テーブルに着いてホッと一息。


「明日は、何を作ろうかな……」


 一日の終わりを感じながら、そんなことを考えていた。家の中はもうすっかり整っているが、まだまだ手を加えたい部分がある。収納スペースの改善、さらに快適な椅子作り、そして庭に何か手を加えるのも面白そうだ。


「スローライフって、意外とやること多いんだな……」


 俺は笑いながら、頭の中で明日の計画を立て始めた。異世界に来てから、すべてが変わったけれど、この世界での生活は悪くない。むしろ、俺にとっては最高の居場所だ。


「よし、明日も頑張るか……」


 そうつぶやきながら、俺は静かに椅子にもたれかかった。自然の音に包まれ、静かに時間が流れていく。この異世界での暮らしは、まだ始まったばかりだが、これからもっと楽しくなるだろうという予感がしていた。



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