第3話: 異世界の植物と生物の観察

「ふむ……これ、食べられるのか?」


 手に持った見知らぬ果実をじっと見つめる。大きさは手のひらにすっぽり収まるくらいで、淡い紫色に輝いている。見た目は美味しそうだが、見たことのないものを食べるのはやはり怖い。


「こういうとき、案外鳥とか動物が食べているかどうかで判断するのが安全って聞いたけど……。」


 周囲を見回してみても、今のところこの果実を食べている動物は見当たらない。むしろ、これだけ自然豊かな森なのに、動物の姿が少ないことに気づいた。森全体が静かで、少し不気味なくらいだ。


「まあ、無理はしない方がいいか。」


 果実をそっと置き、再び森を歩き始める。しばらく歩いていると、急に何かが動く音が聞こえた。ふっと立ち止まり、耳を澄ます。カサカサと草むらの中で動く音が聞こえる。


「動物か?」


 心臓が少し高鳴る。まだ、この世界に何がいるのかは分からない。危険な生物がいる可能性もあるし、ここで無防備に近づくのは得策じゃないかもしれない。


「慎重に……。」


 そっと音のする方へ近づいてみると、茂みの中から小さな動物が飛び出してきた。ふさふさとした毛並みを持つ、小動物だ。さっき川の近くで出会った子犬のような生物――いや、少し違う。耳が尖っていて、尻尾が長い。さらに、体全体がほんのりと光を帯びている。


「お前……また別の種族か?」


 動物は俺の存在に気づくと、一瞬身をすくめるが、すぐにこちらに興味を示したようで、近づいてくる。


「おいおい、そんなに怖がらないでいいぞ。」


 俺はゆっくりしゃがみ、手を差し出す。すると、その小動物は警戒心を解いて、ふさふさの頭を俺の手に押し付けてきた。


「お前、なかなか人懐っこいな……なんだろう、お前の種族名は。」


 思わず微笑みながら撫でていると、背後からまた同じような音が聞こえてきた。今度はさらに大きな影が茂みから現れる。


「おっと……でかいな。」


 現れたのは、体長1メートル以上の鹿のような生物だ。目が黄金色に輝き、頭には花を冠したような角が生えている。まるでファンタジーそのものの姿だ。


「……これは、すごいな。」


 鹿のような生物は、俺を警戒することもなく、ゆっくりと近づいてくる。どうやら、さっきの小動物とは友達らしい。二匹とも、俺に対しては特に敵意を持っていないようだ。


「こんなに大きくて優雅な生物がいるとは……異世界って、ほんとに想像以上だな。」


 俺は再び手を差し出し、鹿のような生物にも触れてみる。毛並みは驚くほど柔らかく、角に生えた花からはほのかな香りが漂ってくる。


「お前たちもこの森で生きてるんだな……。」


 ふと、自分の胸に込み上げてくる感覚を感じた。この世界は、俺が知っている場所とは全く違うけれど、その自然の美しさや命の営みはどこか懐かしさを感じさせる。


「さて、この森には他にどんな生物がいるのかな?」


 俺は少し歩みを進めながら、周囲の様子を探る。まだまだこの森の全貌は掴めないが、少しずつ、この異世界に順応していく感覚がある。動物たちが示す友好の姿勢にも助けられて、森の探検が楽しくなってきた。


「……あ、あれは?」


 しばらく歩くと、森の奥に見たこともない大きな花が咲いているのを発見した。鮮やかな青い花びらが、陽の光を浴びてきらきらと輝いている。その美しさに一瞬、足を止めて見とれてしまう。


「なんだこれ……近づいてみるか。」


 花に近づいてみると、その根元には葉が大きく広がり、しっかりと地面に根を張っている。慎重にその葉に触れてみると、驚くほど柔らかく、触れた瞬間、何かが体内に流れ込むような感覚があった。


「……これはただの花じゃないな。」


 まるで魔力を持っているような、特別なエネルギーを感じる。異世界の植物には、こんな不思議な力が宿っているのか。きっと、この森には他にもたくさんの驚きが隠されているはずだ。


「……この世界、奥が深いな。」


 俺は花から手を離し、さらに森の奥へと進む。何か大きな発見があるような予感がした。


 森の中を歩き続けると、今度は遠くからカサカサとした葉音が聞こえてきた。立ち止まり、耳を澄ます。何か大きな動物がこちらに近づいてきているのかもしれない。


「さて、今度は何が出てくる?」


 思わず期待しながら、ゆっくりと音のする方へ向かう。すると、目の前に現れたのは、黒い毛並みの大きな狐だった。鋭い銀色の目がこちらをじっと見つめ、少し距離を取っている。


「お前も……異世界の生き物か?」


 狐は一瞬だけ姿を消したかと思うと、また現れた。その動きはまるで霧のようで、視界から完全に消えていた。どうやらこの狐、ただ者ではなさそうだ。


「……何かの守護者か?」


 狐は無言で俺を観察しているだけで、こちらには特に敵意を持っていないようだ。逆に、何かを試しているような感覚すらある。


「まあ、今のところお互い様だな。」


 俺はその場に立ったまま、しばらく狐と見つめ合っていた。やがて、狐はまた姿を消し、静かに森の奥へと去っていった。


「……この世界には、本当にたくさんの不思議が詰まっているな。」


 この異世界の森には、想像以上に奥深い生態系が存在している。危険な生物がいる可能性もあるが、今のところは出会った生物たちが友好的で、俺にとって害を与えることはない。むしろ、この世界で暮らす上での仲間になってくれるかもしれない。


「さて、もう少しこの森を探索してみるか。」


 森の静寂と穏やかな自然に囲まれ、俺はさらに足を進める。この世界の謎を少しずつ解き明かしながら、新たな日常が始まる予感がしていた。




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