第2話


 就職したのは、24歳くらいの時で、わりとまともな、カタい仕事だった。


 いろいろなエピソードはあるが、当初2年くらいはまともに勤務していた。で、その確か早春、年度末あたりに、「ドラクエ3」というのが、すさまじいフィーヴァーというのか、ブームになって、ちょっとしてみたくなり、プレイしてみました。


 これに、若輩の、娯楽のない日常だった当時の自分は、ドハマリしてしまった。


 いわゆるRPGロールプレイイングゲーム、これは心理セラピーの一種の、「役割演技劇」からきた言葉らしいんですが、知っている人は知っているし、興味のない人は説明しにくいし、やればわかるから、省略します。


 で、これは、ハマルというと、寝食を忘れて熱中する人も多い。中毒性があって、ネトゲ廃人とかいって、仕事を辞める人もいるらしい。ゲームはつまり、面白いからするのであって、中毒性があって不思議でないが、またハマり方が特殊になったりする。


 ボクも、仕事にはちゃんと行っていたが、「ドラクエ」をしたいからといって、土曜日に休んだりし始めた。で、よく覚えていないが、だんだん非社交的な生活に拍車がかかっていったのだと思う。


 ファミコンブームの黎明期で、面白いゲームソフトがどんどん売り出されだして、目新しさも手伝って、いろんなソフトを買って、必勝本とか雑誌も買って、程なくして、ボクもすっかり「ゲームオタク」化してしまった。


 それ自体にまあ後悔というか、済んだことでどうしようもないが、結果としてなんとなく生活やら性格やらが内向的になり、結果的に離職の憂き目に遭ってしまった。


 アルコール依存も同じで、もともとそういう現実逃避したくなる性格傾向という素地があって、で、依存して不適応を起こすのだから、ゲーム自体に罪はない、と、これは理性的に考えるとそうなる。


 従来からSFにはまったり、例えば、吾妻日出夫さんという漫画家とケースが?類似しているのですが、吾妻さんも「昔から気が弱かった私は、SFを読んだり、朝からウィスキーのビール割を飲んだりして「現実」に対抗せざるを得なかった。本屋の店先で「久しぶりだな、現実!」と言って、一戦交えて、SFのおかげで一矢報いられた。思えば幼稚な”ウラシマ効果斬り”ではあったが…」というようなことをよく述懐していた。


 で、だからたぶんこういう逃避は、事情が分からん人からは胡散臭がられる。反社会的な奴、とみなされるわけである。


 ひきこもり、もそうで、普通の人々はたぶん不安になるのだろう…社会の中に「みんな」に背を向けて、壺中天のようなゲームの楽園に閉じこもっている一定数のヘンナ奴らがいる、というような…


 完全に「敵」なら葛藤しないのですが、仲間なはずの人たちの中に、そういう我々に背馳している、異分子がいる。異分子だかどうかも曖昧…


 が、これは私に言わせれば、そういうゲームをやっている人がすぐ「おかしな奴」みたいに思われてしまうような傾向のほうが、不健康なのではないか。


 人生行路の途上で、道に迷って、閉じこもってしまうということは、何も精神異常でなくとも誰にも起こりうるし、そういう蹉跌をもアウフヘーベンしていくプロセスが尊くて、それが人生なのだと思う。


 一度閉じこもってしまった人を白眼視して、人間失格みたいに侮辱的なスティグマをはりつけて攻撃して、いけにえにして利用しようとしたり、クウキだからとかいって集中攻撃したり、そちらのほうが不健康な、現代社会の病理だ。


 すぐ犯人探しをするのではなくて、ホリスティックな視点で、問題の解決を合理的かつ理性的になしていくべきだ。


 一番面白いのはたぶん殺人と戦争のゲームかもしれない…

代理行動としてのゲームはそれを抑制しているのだろうが、…どういうモラルでゲームと現実が混同されてぐちゃぐちゃになるような事態を忌避すべきかが肝心なのだと思う。





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