只管、電脳遊戯之日々有之

夢美瑠瑠

第1話

A goal of a game




 電脳空間の三次元のフィールドは苛酷だ。


 数多くの敵に囲まれて、少しの油断は死につながる。


 右腕に青白く光るレーザーソード、左肩に電子マシンガンの二刀流?で、おれはランボーのごとく縦横無尽に雑魚敵を薙ぎ払う。

 不気味極まりない音響に満ちた地獄のサグラダ・ファミリア、奇怪な威容の暗黒魔城に勢いよく踏み込むと電光掲示が「FIRST」と緑色に光った。

 

 一番乗りだ! 

 

 ここに来るまでの三か月、苦難に満ちた道程で、25のエリアのどれにおいてもベスト5に入ってきたおれだが、遂に最終エリアでもトップ1になるとは…感無量だった。

 

 ここからは総合成績の優秀者5人による五つ巴のクインテットマッチ、である。

 

 「Survival Race」というこのゲームは40万人が参加して行われるサバイバルゲームで、体力、知能、技能、精神力、どれにおいても他に抜きんでるエクセレントな能力を発揮できなければ生き残れないというルールで、エリアごとにどんどんゲーマーがふるい落とされて、どんどん難易度が高くなる。で、最終エリアではゲーマー同士のデスマッチとなって、生き残った一人が「暗黒魔王」と戦うことになる。


 この最終決戦に勝てば、「MIKADO」という称号を得られて、勝利者はこの世の栄耀栄華を極められることになる。


 人類が文明の進化発展の末にたどり着いた最後の娯楽、皇帝が闘技場でライオンと罪人を戦わせたのとは逆のベクトルの下剋上レース、それが「Survival Race」だった。

 これはしかし真の意味での「人生ゲーム」で、勝利者は嘘偽りなく人生の「最高の勝利者」となる。ゲームと現実のシンクロ、という太古のネットワーク社会の黎明期に若者たちが夢見ていた世界が、今や実現しているのだった。


 「『MIKADO』に与えられる特権てのはなんだい?」

 「おれもよく知らん。極秘事項なんだ。だけど歴代の優勝者はみんな消息知れずで、誰も行方が分からない。『この世の最高の栄耀栄華』という謳い文句は非公式のうわさで、実際には賞金50万クレジットだけだからな。」

 「気味が悪いな。だけど逆に信憑性があるよな」

 「それで参加者が引きも切らないってわけだ」


 五つ巴の戦いは熾烈だった。


 容貌魁偉な黒人が特に強敵だった。


 「ソーサラー」というジョブのオプションで、彼は魔法が使えた。

 おれは変幻自在に姿を変える黒人の魔法の呪縛を断ち切るために二刀流をかなぐり捨てて、名刀匠ムラマサ作の「破幻の刃」のみを装備して、構えた。


 刃は、降り注ぐ月光を孕んで、澄明に光り輝き、敵の魔法の妖雲を払った。


 正眼に構えた「破幻の刃」の先に敵の無防備な姿が一瞬浮かび上がったかと思うと、次の一瞬に、敵はもう落命していた。


 おれの研ぎ澄まされた「破幻の刃」の一閃で、瞬時にして勝負は決したのだ。

  

 残る4人を撃破したおれは最終決戦に臨んだ。

 暗黒魔王はさすがに手ごわく、9999のMAXダメージを与えられるボーナスカードを16枚使い果たしてもまだ倒せなかった。


 手持ちのカードは、あと、ランダムにラッキーダメージを与えられるカードが3枚、聖属性攻撃が可能になる「ホーリーオーラ」が1枚だけだった。


 残りHPが4となった絶体絶命のおれは、一か八か、魔属性の暗黒魔王・ゼットンに対する最後の賭けとして残りのカードをすべて使って、聖剣・ファルシオンのみに可能な聖属性攻撃の「セイクリッド・クロス」を放った!


 まだおれには精霊のご加護があったに違いない。


 「GWUDOOOOOOOON!」


 9999のMAXダメージが三倍掛けされて、さらに属性攻撃のボーナスも上乗せされて、「フィーバー」状態が招来した。


 ダメージ合計99999999!さすがのゼットンもこの一撃で、もう持ちこたえられず、華々しく四分五裂してまがまがしい霧を残して崩壊した。


 「GOAL!WINNER IS YOU!」

 おれは歓呼の声に包まれた…


… …


 「はっ」と気が付くとおれはキーボードに突っ伏していた。

 コーヒーメーカーのコーヒーがコトコト沸騰していた。

 そうだ、おれは「Survival Race」というゲームのチーフプログラマーで…世界観やゲームデザインの設計者だったのだ。

 何日も徹夜が続いたのでつい眠ってしまって、ゲーム世界に入り込んだという夢を見ていたらしい。

 「それにしても真に迫った夢だったな…」


 しかし、とおれは考えた。

 おれはゲームのデザイナーだから、ゲーム世界のいわば造物主・「神」ではある。

 だからもしかしたら、荘子の見た「胡蝶の夢」のごとくに、「一炊の夢」、コーヒーの湧いている間に体験した人生のほうが本当の人生で、今のこのプログラマーに人生のほうが「夢」なのかもしれない…

 今のおれは「MIKADO」に“本当に”転生した後のおれなのかもしれない。


 それは今となっても、どうしても不可知の世界なのだ…

 

<了>



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