第二の年 第三の季節
夏の終わりが近づく頃、森の中では蝉の声がかすかに聞こえ、草花が風に揺れている。
ケセフとレーリアは、僅かに日焼けした肌を輝かせながら、木陰で遊んでいた。
二人は、今やすっかり自分の足で駆け回ることができるようになり、動物たちと共に過ごす時間が多くなっていた。
その日の夕方、イーサンとローシュは家の前の小さな庭で、子供たちと一緒に座って休んでいた。
ローシュが心地よさそうに木製の椅子に腰かけ、ケセフとレーリアを見守る一方で、イーサンは子供たちに水差しと小さなコップを二つ持ち声をかけた。
「ケセフ、レーリア、少し休もうか。お前たちも疲れたろう?」
ケセフは木に登るのを一旦やめて、動物たちと共に地面に降りた。
レーリアもその後を追いかけ、二人とも父親の側に座った。
「ねえ、父さま、母さまの小さい頃ってどんなだったの?」と、
コップを両手で持ちながら、水を飲み干したレーリアが突然、興味津々に尋ねた。
イーサンとローシュは顔を見合わせて、ふっと微笑んだ。
「僕たちの子供の頃か…」と、
イーサンが思い返すように目を細めた。
「そうだなあ…お前たちほどは活発じゃなかったかもしれない。
でも、森の中を歩き回って、植物について調べるのは好きだったよ。
ローシュと一緒にたまに木登りをして、どっちが一番高いところまで行けるか競争したりしてね。」
ローシュがその言葉に笑いながら付け加えた。
「たまに母様も一緒に登ってたわね。
でも、イーサンはいつも降りる時震えていたのよ。
大体途中で怖くなって降りようとするんだけど、足を滑らせてしまって、落ちたこともあるわ。」
「そういう時は母様が飛んで助けに来てくれたね。
…助けてもらう回数は数えるのをやめたけど。」
ケセフとレーリアは目を丸くして聞いていた。
「それ、本当?」
とケセフが信じられない様子で聞くと、イーサンは苦笑いしながら頷いた。
「本当さ。でも、大した怪我はしなかったから、またすぐに登りたくなったんだ。
子供の頃は、そうやって遊びながら少しずつ勇気を学んでいくんだよ。」
「時々怖いことがあっても、挑戦しないと成長できないものね。
イーサンが勇気を持てるようになったのは、もっとすごく後だったけど…」
ローシュが子供達に優しく微笑んで、イーサンにだけ聞こえるように少し悪戯っぽく言った。
イーサンは何も言えずに、ただ頸を掻いていた。
「母さまも、そうやって木に登ったりしたの?」と、レーリアが興味津々で続けた。
「ええ、もちろん。だけど私は、イーサンよりもう少し活発だったわ。
木登りも好きだったけど、私はよく動物たちと遊んでいたの。ケセフのようにね。」
ケセフはその言葉に、草の上で小さな動物たちが遊んでいるのを指差した。
「僕、母さまみたいに動物と仲良くなれるんだ。みんな、僕のことを怖がらないんだよ。」
「それは素晴らしいことだね、ケセフ。」
イーサンが温かい目で息子を見つめた。
「動物たちは優しさや穏やかな心を感じ取ることができるんだよ。
お前もきっと、ローシュと同じように森の友達がたくさんできるだろう。」
「じゃあ、僕もいつか森で大きな動物を友達にできる?」ケセフが目を輝かせて尋ねた。
「もちろんできるさ。」ローシュが微笑んで頷いた。
「大事なのは、動物たちを尊重して、その存在を大切にすること。
それを忘れなければ、どんな生き物とも心を通わせることができるわ。」
一方で、レーリアは少し考え込んでから、ぽつりと聞いた。
「じゃあ、母さまと父さまは、大母様とも仲良しだった?」
その質問に、やはり少女への興味が尽きない様子に、イーサンとローシュは一瞬、顔を見合わせたが、やがてローシュが優しい声で答えた。
「そうね、私たちは母様ににとても助けられたの。
いつも私たちを見守ってくれていたわ。」
「でもね、レーリア。」
イーサンが付け加えた。
「母様はきっと、これから少しずつお前たちに自由を与えようとしているんだ。
私たちが大きくなったように、お前たちも自分の力で世界を感じ取って、その一部として自分で選択して生きていく、そう感じられるようになる時期が来るからね。」
「そう、私たちが子供の頃は、母様がいつも一緒にいてくれたけれど、
そのうちに自立しようとする私たちを応援して、見守ってくれたわ。
じきにあなたたちにもそんな時がやってくると思うわ。」
ローシュが微笑んで子供たちを見つめた。
その言葉に、レーリアは少し寂しそうに見つめながらも、頷いた。
「でも、いつでも会えるよね?」
「もちろんさ。」イーサンが優しく言った。
「私たちだって、母様だって、いつだってお前たちを見守ってくれている。大きくなったとしても、大切な子どもだからね。」
「そうね。
さて、そろそろ母様との食事よ。みんな行きましょうか。」
束の間の団欒は、温かな夕日と共に静かに続いていた。
四人の笑い声が風に乗って森の中に溶けていき、夏の終わりの穏やかなひとときを刻んでいた。
こうして、第三の年がもう暫くで終わろうとしている。
世界が、その物語を進めたがっていたことをまだ誰も知らなかった
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