第3章

第二の年 第一の季節

紅葉がちらほらと散り始める晩秋の頃。


イーサンとローシュの家は、いつも以上に慌ただしさが満ちていた。


外の冷たい風とは対照的に、家の中は暖炉の火で温かく、けれどその暖かさとはまた別の緊張感が漂っていた。


イーサンはは、少女の指示に従って居間と寝室を行ったり来たりしながら、大きくな体でドタドタと動き回っていた。


いつも冷静な彼からは想像もつかないほど慌てふためき、何故かお玉を握りしめながら少女の下に清潔な布切れと、新たなお湯を持ってきた。


「イーサン、もういいから。ローシュの手を握って、たまに腰を摩ってあげて。」


そんな息子を笑うことなく、少女は優しく声をかけた。


「わ、わかったよ!」


焦った声を出しながら、イーサンはローシュの側に寄り、彼女の手をぎこちなく握りしめる。



「ローシュ、ごめんね、痛いよね…」



少女は微笑んで首を振った。


「こういう時は『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』とか、励ます言葉の方がいいと思うよ。」


「あ、ああ、そうだよね。ありがとう、ローシュ。きっと上手くいくからね。」


イーサンは、不器用なながらも一生懸命にローシュを励ました。


「ーーーッ…うん…ありがと…ーーーッ!」


ローシュは陣痛の合間に、イーサンの言葉に応えた。


苦しそうな息遣いの中にも、確かな意思が感じられた。


少女は冷静に指示を出しながらも、心の中でこの瞬間に全力を注いだ。


ローシュと赤子たちの為に、イーサンからこっそりと頼まれた奇跡を今も起こし続けていたのだ。


新たな命が、今まさに誕生しようとしている。

決して失敗などさせてはいけない。


そう思いながら、少女は奇跡を行使し、ローシュと赤子の負担をなるべく避けるよう、痛みがなるべく少なくなるようにしていた。


それでも時間が経つにつれて、陣痛はさらに激しくなって、


家の中はそれに耐えるローシュの声と、イーサンの不安げに、しかしローシュを励ます声、


そして少女の落ち着いた声が響く場となった。


「もう少しだよ、ローシュ。頑張って、あと少し。」


少女はローシュに優しい声で励ましを送った。


寝具に横になるローシュに寄り添う形で身体を屈めていたイーサンは一度だけ、少女の方を見上げた。


彼の瞳に不安と希望が交錯しているのが見て取れた。



少女は一言、

「大丈夫。」と、それに返した。


彼は深く頷くと、少女には何も言わず、ただローシュの手を強く握り返した。


そしてついに、ローシュが大きく息を吐き出した瞬間、家の中に新たな泣き声が一つ、そしてすぐあとにもう一つと響いた。


生まれたばかりの命たちが、その小さな声で世界ににその存在を知らせたのだ。


「おめでとう、二人とも。」


少女は静かに微笑みながら、ローシュの顔を見つめた。




疲れ切ったローシュは、泣き止まない赤ん坊を抱きかかえながらも、幸せそうに涙を流しながら微笑んでいた。


「ありがとう、母様。」

「本当に…あり、がとう。」


イーサンは震える声でイーサンは涙を拭いながら呟いた。

ローシュも、息も絶え絶えに、しかしはっきりと感謝の言葉を漏らした。


イーサンのはローシュの頭をしきりに撫で、ローシュは少し気恥ずかしそうにしていた。


二人の間には伴侶としての絆が、小さな命を前に更にしっかりとしたものになっていった。


「ローシュ、イーサン、よく頑張ったね。

さあ、その子たちをこちらに。」


そう言うと、少女はローシュの腕からそっと赤子たちを受け取り、その小さな体を両手で包み込んだーーー

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