第十一の月

夏の終わり、蝉の声もまばらになり、風にほんの少し秋の気配が混じり始めていた。


季節の変わり目を告げる雨が、時折大地を湿らせ、夏の熱気を少しずつ和らげていく。



そんな日、少女はイーサンとローシュと共に、二日に一度の、一緒に摂る食事の時間を楽しんでいた。


食卓には、かつて二人がまだ幼い頃、暗がりを怖がった時に少女が作り出した奇跡のランプが置かれていた。


その暖かな光が、食後のお茶を手にした三人の顔を柔らかく照らしている。


ローシュは楽しげに話し、イーサンはそんな彼女の話に耳を傾けながら、静かに果実酒を飲んでいた。


「そんなことがあったんだね。」


と、少女が微笑む。


「そうなの、母様、それでね、イーサンったら――」


と、ローシュは楽しげに笑いながら、会話に花を咲かせていた。



そんな穏やかな時間が続き、そろそろお開きになろうとした時だった。



イーサンとローシュが席を立ったその瞬間、少女はふとローシュの方を見ると、奇妙なものを目にした。



ローシュの腰や腹周りに、ぼんやりとした光が纏わりついていたのだ。



目をこすり、もう一度よく見てみるが、光はさらにはっきりと、そこに輝いている。


「ねぇ、イーサン。ローシュのお腹の辺りに何か見えない?」


と、少女は不思議そうに問いかけた。


「ええ?特に何も見えないよ。いつも通りだけど…」


と、イーサンは怪訝そうに答える。


「ねぇ、二人ともなんの話?二人してジロジロ見て…」


と、ローシュも不思議そうに二人の視線を気にしていた。


少女は、その光景に見覚えがあることに気づき始めた。


記憶の中から、必死にその光の正体を思い出そうとしていた。


どこかで、この光を見たことがある――そう、命あるものが果てた後に出てくる、あの神秘的な光だ。


だが、今回はそれとは違う。


光は力強く、柔らかく、命の始まりを祝福するかのように輝いている。


それは、新しい命がローシュの中に宿っている証だった。


「そうか…」少女は静かに微笑んだ。


「ローシュ、お前の中に新しい命が宿っているんだよ。」


その言葉に、ローシュもイーサンも驚いて顔を見合わせた。


そして、しばらくの沈黙の後、ローシュはそっと自分の腹に手を当て、少し戸惑いながらも、その温かさを感じ取った。


「本当に…?」と、ローシュは呟いた。


「うん、本当に。あの光は、命の証なんだ。」


少女は確信を込めて優しく答えた。


それを聞いたイーサンは、信じられないような顔でローシュを見つめたが、やがて静かに微笑み、その手を彼女の手の上に重ねた。


新しい家族の誕生が近づいていることを、二人とも心から感じ取っていた。


そして、その未来が少女にも新たな喜びと温もりをもたらすであろうことを、彼女は静かに確信していた。

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