第十の月


夏の夜、満月が煌々と輝き、星々がその光を支えるかのように空に広がっていた。


昼間の激しい熱気と喧騒を洗い流すかのように、夜は静けさと涼しさをまとい始めていた。


風はまだ少しぬるかったが、それでも肌に心地よく、額に浮かんだ汗を優しくぬぐってくれる。


川のそばでは蛍がふわりと飛び交い、虫たちの歌声が夜の帳を彩っていた。


あちらこちらで瞬く蛍の光が、現れては夜の闇に消え、美しいリズムを刻んでいる。




イーサンとローシュの家は、つい先日、遂に完成した。


少女の指導を受けながら二人で懸命に建て上げたその家は、彼らの新しい生活の始まりを象徴するものだった。


完成の日、二人は達成感と安堵感から食事中に眠り込んでしまい、その夜は結局、それまで通り少女の家に泊まることになった。


翌日からは、新たな生活が始まり、二人は互いに支え合いながら、家を守り、日々を送っていた。


その夜、少女は二人と共に川辺に来ていた。


涼しさが戻ってきた夜の空気の中、足元の水は冷たく感じられ、木々の香りも相まって、日中の汗と疲れが流れてゆく。


彼らは川の縁に腰を下ろし、昼間の暑さから解放された川の水に足を浸しながら、他愛もない話をしていた。


川の近くには蛍が舞い、蟋蟀や様々な虫たちが、その存在を主張するかのように涼やかな歌声を響かせていた。


最初、蛍や虫たちはなぜか少女の周りに集まり、まるで彼女を囲むかのように、夜ににつかわしくなくざわめき立った。



しかし、彼女が穏やかに


「ここではなく、他の場所で遊んでおいで」


と囁くと、彼らは素直に散り散りとなり、あっという間に、今の静かな光景が広がった。






イーサンは、ローシュが最近どれほど甘えてきたか、酒の勢いもあってか、思わず少女に話してしまった。


「ちょっと、イーサン!」


その瞬間、ローシュは恥ずかしさで顔を真っ赤にし、眉をつりあげて、冷たい川の水をイーサンの頭から浴びせた。


イーサンは一瞬驚いたが、やがて2人は顔を見合わせ、辺りには笑い声が響き渡った。



その光景を見ながら、少女は静かに微笑んだ。



彼らは確実に、新しい家族としての歩みを進めているのだ。


その姿は、彼女にとってもかけがえのない喜びだった。


川辺には、満月の光が優しく反射し、虫たちの歌声が、静かで暖かい夜を包み込んでいた。

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