第三の月
肌寒さが増し、木々は華麗に赤や黄金色に染まり、秋の訪れを告げていた。
鳥たちは空を舞い、獣たちは地を駆け、魚たちも深く静かに水の中で、
どれもよく肥え始め、冬への準備をしていた。
自然はその摂理に従い、冬の厳しさに備えていた。
少女と2人の子供、イーサンとローシュもまた、冬を迎えるための準備に追われていた。
イーサンとローシュは、既に前世で知るところの幼児と言える程度に成長していた。
そんな2人を連れて、森で鹿や猪の前に立つと、彼らは迷いもなくその身を捧げるように横たわった。
最初の頃は、その異様さに圧倒されていた少女も、今ではその光景に慣れてしまっていた。
それでも、心の奥底にわずかな痛みが残る。
これは元いた世界では感じることのなかったものだ。
「ありがとうございます。あなた方の命を頂きます。」
少女は動物たちに手を合わせ、共にいたイーサンとローシュにもそうするように促した。
彼らは言葉と成長こそ早くとも、心だけは年相応で、善悪も道徳も非道徳もなかった。
少女自身もこの世界に来てから様々なことを考えるようになって、そうして知った色々を彼らに拙いながらも伝えていた。
少女の言葉に、イーサンもローシュの2人も、少女を真似て静かに手を合わせた。
「少し離れていてね。」
そう声をかけると、少女は持参した黒曜石のナイフで、そっと鹿と猪の頸動脈を切り裂いた。
すると、ややあって二匹の動物が最期の呼吸を終えるのと同時に、彼らの体から淡く光る球体が静かに浮かび上がった。
少女は手を翳し、掌を天に向ける。
柔らかな光を放つその球体は一瞬、彼女と子供たちの周りを一回りすると、ゆっくりと空へと昇っていった。
この変化は赤子たちを育て始めた翌日から起こっていた。
朝、目を覚まし小屋の外に出ると、そこには麦が生え、果実をたわわに実らせた木々が整然と並んでいた。
川に入れば魚は勝手に網ではなく少女の手の内に入り、
森へと行けば今のように動物たちが自ら身を捧げにくる。
また、狼や狐なども自らの獲物を恭しく差し出した。
少し前まで湖だと、そう少女が思っていた海に行くと、貝や魚が集まり…10本足のとてつもなく大きな怪物までも自分の前に、フジツボや貝、海藻などを絡ませた足をそっと差し出してきた。
流石にその時には驚きを通り越して呆れを覚えたものだ。
しかし、イーサンとローシュを育てるためにも申し訳なく思いながらそれらの命を頂戴した。
命を奪うときには必ずこの光が現れる。
その光は魂なのだろうか。
少女はその光景を見つめながら、複雑な感情が胸の中で渦巻くのを感じていた。
尊厳を持ち、まだ先のある命をいただくことの重み。
そして、それを見守るイーサンとローシュにも、彼女はいつかこの重さを教えなければならないと、心の中で静かに決意した。
冬の厳しさに備えるために、少女はすでに心も体も準備を整えつつあった。
これが、この新しい世界での彼女の現実であった。
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