雪編
昨晩の酷い寒さや曇り空から、知識のある者は予感していたかも知れないが、まだ成人にも満たない数人は、朝起きて、僅かな鉄格子の隙間から顔を覗かせ、外の様子に興奮の様子を見せた。
12月。このアナーキー刑務所のある地にも雪が降り積もった。一段と増す寒さに億劫になる者もいれば、真っ白い地に早く足跡をつけたくて仕方がない者もいる。朝の問診時にキャシーは、「問診が終わり次第、刑務所周辺に出歩くことを許可するわ」と一言を個々に全員に告げた。
▪︎▪︎▪︎
一人の少女が最後にようやっと問診が終わり、駆け足で外へ向かった。自分のバディや親友含め、皆はもう外にいる。大きな二重扉をくぐり、皆の元へ合流しようと、真っ白い地に一歩足跡をつけた。
「あら、デイヴィッドさん!扉の横で何をしているの?」
「り、り、リズちゃん、え、へへ、こ、こんにちはぁ…」
前を見つめれば、少し向こうで雪玉を投げ合っている自分のバディを含めた数人の姿があったが、リズはデイヴィッドの方を向き直し、会話を続けた。
「皆のところに行かないの?」
「い、いこうと、し、し、したんだけど、ねぇ……。ゆ、雪の、う上、が、ああ、歩きにくくってぇ……。き、キャ、キャシーさん、が、こ、転ぶからダメ、ってぇ、……」
辿々しい言葉をリズはしっかりとデイヴィッドの目を見ながら聞き、相槌を打った。
「そうなのね。でも、折角の雪なのに、何も出来ないなんて、つまらないわね」
「で、でで、でも、いま、リ、リズちゃんとぉ、お、お話出来てぇ、ぼ、僕、たた、楽しいよぉ……」
そういってねっとりとデイヴィッドは笑う。リズは微笑み返しつつ、何かを思い付いたように、デイヴィッドの袖口を軽く引いた。
「デイヴィッドさん、座って!」
リズが先にしゃがむと、意図は理解していないものの、デイヴィッドもゆっくり、ゆっくりとその場に座り込んだ。リズは足元にある雪を軽くかき集め、ぎゅっ、ぎゅっ、と素手で握り始めた。デイヴィッドは疑問符を浮かべつつリズの様子を見ていた。
「もう一個重ねて……。どうかしら!ミニ雪だるまさん!」
「わ、わ、わぁ…!か、か、可愛いねぇ……!」
「これならデイヴィッドさんも出来るわ!手を出して!」
「え、っと、こ、こ、こう、?」
右手をリズの方に差し出すと、リズはデイヴィッドの手のひらに雪を盛り、その雪の上に自分の手をのせた。
「一緒に丸めましょう!少し力をいれてみて」
「い、いい、一緒に……??ち、ちからを、……う、うん……!」
ぎゅっ、きゅっ、と二人の手の間に、雪が丸く固まっていく。
異なる体温に、じんわりと溶けながら。
□□□
「出来たわ!綺麗なまんまる!」
二人の周りを、無造作に転がった小さな雪だまが囲う。デイヴィッドの手の上に、綺麗に丸まった雪だまがすっぽりと収まっている。
「わ、わ、わぁ、!え、えへ、ほんとに、き、きれい、」
これは既に何個目かの雪だまで、今デイヴィッドの手にあるのは、リズがほんの少しだけ手を貸した程度で、デイヴィッド自身が地面からかき集めて丸めて作ったものである。この様子を見て、リズはどこか満足げに口を開いた。
「これなら全然1人でも出来ちゃいそうね!」
「え……」
その時、少し向こうからリズのバディの声が聞こえた。リズは振り返って応答する。"第二回戦の人数が合わないから来て欲しい"という旨の言葉に、リズは前向きな返答をした。デイヴィッドは咄嗟に、"置いてかれる"と思って、リズが立ち上がる前に、雪だまを落としてリズの手を掴んだ。リズは少し不思議に思ったが、すぐににこっと笑みを浮かべた。
「それじゃあ行きましょう、デイヴィッドさん!立てるかしら?」
「え、え、?」
リズの左手を掴んだデイヴィッドの手首を、リズは右手で握って、立つように手を貸した。ゆっくりだが、デイヴィッドは立ち上がる。
「あ、ありがとぉ、……え、えっと、どこ、行くの、?」
「雪合戦!あっちに混ざりましょう!」
そういうリズの言葉に、デイヴィッドは、にったりとした笑みが自然と浮かんだ。嬉しい、嬉しい!変な笑いを溢しながら、上機嫌で会話を続けた。
「え、えへ、へ、ぼぼ、僕に、できる、かなぁ、」
「あら、投げるだけが勝負に勝つ必勝法じゃないわ!雪合戦っていうのは武器がたくさん必要なのよ!ほら、武器の作り方、教えてあげたでしょう?」
「えっ、う、うん……!」
デイヴィッドの手首を、ほんの少し優しく引っ張って先を誘導する。
「ふふ、デイヴィッドさんが作ってくれた雪玉があれば、絶対勝てるわ!さ、行きましょ!」
「えへ、へ、う、うん、…行くぅ!」
★★★★★デイヴィッド•リード【きゅう、きゅ、っと、】
★★★★★リズ=ロバーツ【純白をぎゅっと抱きしめて】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます