海編
午前10時48分。全員の問診が終わった後、キャシーから徴集があった。内容は以下のものだった。
「まだウイルスによる汚染が限りなく微小の海辺を発見したわ。少し調べたいことがあるから、そこの調査をすることにしたのだけれど、ここから少し離れていてね。少なくとも3日は戻れないの。流石に、貴方達被験者を3日も手放しにすることは出来ないから、貴方達にも着いてきて貰うことにしたわ。といっても、貴方達がするべきことはあたしの邪魔をしない、ただそれだけよ。それ以外は好きに過ごして貰って構わないわ。……あぁ、それと、水泳着を人数分確保出来たから、海水浴も許可するわ。ちょっとした息抜き程度に考えてちょうだい。輸血のことは心配しないで。外でも簡易的に行える物を用意したから。出発は明日の朝。それじゃあ、解散して貰って構わないわ」
そう言って、水泳着の入った鞄を置いてキャシーが自身の研究室に戻っていったのが今朝のこと。そして今、12時12分。マディは何となくフラっと立ちよった共有スペースに足を踏み入れた時に、自身の水泳着を確認していないことに気付いた。別に特別確認しておくべきものではないが、現状退屈なため、置かれた鞄の元へ向かうことにした。
「……あれ、」
鞄の側で、忙しない様子の誰かが立っていた。アイツは……。
「ツルツル女」
呼ばれた声に反応して、ツルツル女ことマリオンは、マディの方向に振り向いた。普段の様子とは少しことなって、マリオンは慌てふためいていた。そしてその様子のまま、「マディ~~!!」とマディの元に泣きついた。
「わ。なに。どうしたの」
「見て、見てよ!このかわいい水着!」
マリオンの手に握られた水着は、大人っぽく女性的で、尚且つ可愛い印象を受けられる。マディは頭に疑問符を浮かべながら、「これがどうしたの。」とマリオンに聞いた。
「こんな世の中だから、我が儘言えないのは承知のうえでさ…!こ、こんなにかわいいの、……柄じゃないな~……何てさ~」
心なしか、そう言う風にいうマリオンの表情はしょぼしょぼしているように見えた。「……そう、なの。」としか言えないマディは、眉間にシワを寄せながら困惑していた。すると、マリオンはハッとした顔をして、マディの肩を掴んだ。
「そうだ、マディ!これをわたしでもいい感じに着れるように見てくれないかな?」
「……え?」
「マディって、着こなし上手だし、大人っぽくて可愛いからさ。お願い!ね?」
「………えーと」
別に、自分の美的センスのようなものを誇っていないし、そう言うものはシーラとかの方が向いているんじゃないか、と思うけど……。と思いつつも、マリオンのお願いを無視したくない気持ちもあったから。
「……わかった。……自信、ないけど」
□□□
「改めて、この前はありがとうね、マディ!恥ずかしかったけど、わたしでも着てもおかしくないかな?っていう風に思えたよ。マディのおかげで、久々の海水浴も楽しめちゃった!」
そう、いってマリオンはマディの前で満面の笑みを浮かべながらお礼をいった。マディとしては、自分がしたことなんて、少し腰布を増やしたのと、帽子とアクセサリーを追加してみただけである。正直、普段のマリオンの印象から受ける、カジュアルでクールな印象からは遠ざかっていた。けど、その装飾が、何となく、マリオンと水着とのまとまりが良くなるように見えたから。
「別に、大したことはしてないけど、どういたしまして」
「大したことしてくれたよ~♪」
そう言って、マリオンはマディの左頬をちょいちょいとつついた。本当にいつも楽しそうな人だな、と頬のこそばゆさを心にも感じる。
「てかさ、ずっと思ってたんだけど」
「ん?なぁに?」
「"柄じゃない"って言ってたけど、そんなこと、いちいち気にしなくて良くない?そんなことより、アンタがどうしたいかで決めた方が楽じゃない?色々と。ていうか、別にアタシがどうこうしなくても、元から似合ってたし」
「……マディ」
マリオンは見開いた目でマディを数秒見つめたあと、少しだけ頬を赤らめて、マディに飛び付くように抱きついた。
「も~!マディ、きみってほ~んと優しい子。そんなこと言われると、もっとマディのこと好きになっちゃうじゃん!」
「うわっ。ちょっと、近い。近いってば」
★★★★★マディ【ありのままの自分で】
★★★★★マリオン【笑わないでね…?】
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