花火編
18時07分。ヒューの空いた時間に、医療や数学の知識を学ぶことがエイプリルにとって日常の一つとなってきた頃。休憩中に、ヒューは自身の机の上に様々な物を広げて、何やら作業をしていた。邪魔になったらいけない、とエイプリルは思い、先程教えて貰ったことを一人で復習していた。けれど、机の端に置かれたある物に、ふと視線を奪われ、少しだけ歩み寄ってそれを確認しに覗いた。
「Ms.ルイス。気になるのかな?」
「あっ、あ、えっと、す、すみません、邪魔、しちゃって……」
「構わない。ちょっとした暇潰しのような作業だからな」
エイプリルが気になっている物に視線を向けていることに気づいたヒューは、「あぁ、これか?」と言ってそれを手に取った。
「あっ、……はい、」
「そうだな、Ms.ルイスはこういった物が好きだからな。きみの思っている通り、これは手持ち花火さ。私のお手製のね」
「は、花火、……は、初めて、見ました……。つ、作れるん、ですね……」
「作ること自体は簡単だ。寧ろ、こんな世界じゃ、材料をかき集める方が困難だろう」
ヒューは花火をエイプリルに向けて手渡す仕草をした。エイプリルは少しだけ戸惑いながら、それを受け取った。
「欲しければ差し上げよう。そうだな、Mr.ノーバディと時間を過ごすキッカケにでもするといい」
「へっ!?あっ、…………あ、りがと、う、ござい、ます、……」
エイプリルは明らかに動揺したあとに、顔を両手で覆った。後に、ちらっとヒューをみて、小さな口を開いた。
「……あ、の、……花火って、……火、つ、使わなきゃ、で、すよね……」
「花"火"とつくくらいだ。当然さ」
エイプリルは少しだけ不安そうな顔をした。それが何故かはヒューにはわからなかったが、ふ、と軽く微笑んだ。
「何、火など、しっかり正しく扱えれば何も恐れる必要はない。お勉強のついでだ。Ms.ルイスのために火の正しい扱い方も教えようか」
「あっ……、ありがとう、ございます……。……あ、あの、あと、……は、花火の作り方も、……教えて、くれませんか……?……アダムくんとも、……一緒に、やりたくて……たくさん、欲しいな、……なんて……」
「ふむ、いいだろう。では、正しい火の扱い方、そして5歳児でも簡単に作れる花火の作り方をMs.ルイスに伝授しよう」
□□□
「やぁ、おはよう。Ms.ルイス」
「あっ、せんせい……!お、おはよう、ございます……!」
今日は前回の続きから始めるが質問とかは何もないかな?とヒューは尋ねた。エイプリルは少しもじもじとしたあとに、ヒューの前で頭を下げた。突然のことで少しヒューは驚いたが、顔をあげたエイプリルは笑みを浮かべていた。
「あの、せ、先日は、ありがとうございました……!あの、は、花火……!」
「あぁ、それのことか。いきなり頭を下げられたものだから、私のテディを破壊でもしたのかと思ったよ」
「あっ、す、すみません、……お、お礼の……!頭下げ……です……!せんせいが、丁寧に、教えてくれて、花火も、たくさん作ってくれて……。の、ノーバディさんと、アダムくんと、……た、楽しい思い出が、一つ、増えました……!これも、全部、せんせいが居てくれたからで……。ほんとうに、ありがとうございます……!」
これほど自分に対してエイプリルが陽気に振る舞うことは珍しく、ヒューは、それほどMs.ルイスにとって彼らは大切な存在なのだな、と再認識した。
「私が教えたことが、きみにとって素晴らしい体験に繋がったのであれば、教えた身としてそれ以上の対価はないさ。さて、ではその思い出話を聞かせて貰いながら、前回の続きから始めるとしようか。Ms.ルイス」
「あっ、はい……!えっと、今日も、よろしくお願い……します、!せんせい」
★★★★★エイプリル・ルイス【あなたとあなたと、わたしの素敵な、ぱち、ぱち】
★★★★★ヒュー・ウェイド【本日の特別授業】
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