No.0【未だ見ぬ希望達】
「あー、あー。もしもし、もしもし。ダメね、もう、ここの回線もイっちゃってる」
女は耳に当てた公衆電話の受話器を、そのまま地面に放り投げた。
時は2027年。女はアタッシュケース一つだけを持って、このパンデミックの起きた荒廃した世界を、カツカツとヒールの音を高らかに響かせ、踏みつけて歩く。白衣のポケットから、剥き出しの煙草一本とオイルが少量だけ残っているライターを取り出して、煙草を口に咥え火をつけた。ライターに火をつけたまま、先程から背後にべちゃべちゃと音を鳴らしながらついてくる血塗れのアンデッドに向けて投げつけた。焼かれる痛みに叫びながら、のたうちまわるアンデッドに、見向きもせずに女は前へ歩く。
目的の場所についた女は、足元にアタッシュケースを置き、前に両手を組んで伸ばした。再度アタッシュケースを持って、女は、かつては罪人を収容するために作られた施設「アナーキー刑務所」に足を踏み入れた。中には、元罪人であろうアンデッド達が檻の中に収容されていた。外にも、ちらほらと出てきていたけれど。女は白衣の内ポケットに入れたハンドガンを取り出して、その銃口をアンデッドの脳へ向けた。
「ごめんなさいね」
ズドン、ズドン、と何回も空虚な刑務所に銃声音が反響する。
数時間も経てば、その刑務所にいるのは女ただ一人になった。女はしゃがんで、足元に転がるアンデッドの生首の頬を撫で下ろした。
「恨むなら、私を恨みなさい。愛しい子。彼らを恨んだって、時間の無駄だから」
女は立ち上がって、広い刑務所を見渡した。
「予想通り、十分ね。後は適性を見つけるだけ」
ふぅ、と女は柄にもなく疲れ混じりの溜め息を出した。
「やっとね。やっと、研究を再開出来る」
「待ってて、私の希望達」
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