第3話 爛れた夜
ボンヤリと光を放つ和紙提燈が吊られ、砂の
主人公のアレックスが、リドロックで目蓋を
小学生が使う通学路の電柱に貼り付けられているアレを見た事があるだろうか。ギョロリと見開かれた人間の目の球が描かれた、犯罪防止を
私は、教師のように堅固な道徳観念を持ち合わせた、人間ではないので、何をしでかすか分からない不安定なやつだった。その為、その監視の目として、私はこのポスターを目立つ場所に貼り付けていたのだった。しかし、
部屋の中央に置かれた扇風機が勿体らしく振り向いてくる。ボーッと放心していた私は、その
私は目が弱い。
こうして分厚いレンズが嵌った丸眼鏡を掛けている訳は、そこにあった。何度も落とした眼鏡のレンズは所々傷付いていて、フレームも皮脂で色褪せているが、いくら小説で稼ぎが増えたとしても私の貧乏性は変わらなかったので、新たに買い替える気など起きなかったのだ。
兎も角、そういう事情があって私の小説は明石さんが代筆してくれている。所謂ゴーストライターなどのような不名誉なモノではない。口頭で伝え、明石さんがラップトップから磁気媒体に記録してくれているのだ。
煩悩と色欲に
あの廃神社で初めて出会った十二歳の頃と比べてみても、彼女の肉体は年齢不相応なほどに魅力的な成長を遂げていた。……丸く実った乳房は、黒と
明石さんは、ラップトップの画面から視線を上げて私を見た。
「
日ノ丸印が特徴的な煙草の小箱が、私のほうに差し出される。
私はそれを文机の端っこへと遠ざけた。
「ありがとう。後でね」
私がそう短く答えると、彼女は軽く咳払いをした。
「そうは言われましても、一時間も経って原稿用紙一枚分も書き上げられていないのは流石に調子が良いとは思えません」
「申し訳ない。しかし、書きたいものが見付からないんだからしょうがない」
「去年は気が狂ったように官能小説ばかり書いていらしたのに。何かあったのですか」
「いいかい、明石さん。ロクすっぽ文学の勉強もせずに、感覚と衝動だけで作家をしようとするとこうなるんだ。決して私みたいな
「……その点に関してはマア色々と物申したい事がありますが、今夜はそういう事にしておきましょう」
明石さんがラップトップを閉じる。そうして座布団から徐に立ち上がり、和紙提燈の紐を引っ張って灯りを消すと、まるで
胸高に結われていた真っ赤なスカーフを解いた音が聞こえる……ポリエステルの布が擦れる音が近寄ってくる……私が胡坐を掻いている一枚の畳に、ヒト一人分の重みがユックリと侵入してきて、私の膝と膝の間にまで這い寄ってくる……
私はその引力とも
質量を伴った
包装を破く音。
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