4話
誰かが助けてくれた。
そう思うには十分な現象の数々がそこにはあった。
それにしても、なんか奇妙な助けられ方だな。
ありがたいが、しかし少しばかり不気味だ。
僕はそうは思いながらも、初めて見るパンというまともな食料に、少しばかりテンションが上がっていた。指示役の男たちが食べているのを見た事が有るだけで、食べた事も、触ったことも無いけど、見るからに美味しそうだ。
「それにしても、これがパンというものなんだな、表面がざらざらしてて、香ばしい良いにおいがする、それに、これは温かい?焼きたてなのか、すごい、すごいぞ」
僕は焼き立てのパンという事実に、さらににテンションが上がった。
それにしても、香ばしいうえに温かいなんて、なんて贅沢な料理なんだ。
僕には食べるのが勿体ない程美しい食べ物に思える。でも、背に腹は変えられない、食べてしまうのがもったいないような気もするけれど、今は腹が減ってしょうがない、助けてくれた謎の人に感謝して、存分に味わっていただこう。
「うっっ!?」
毒を盛られたかのような反応だが、これは只、感嘆と喜びと衝撃によって湧き出したうめき声だ。
口の中に広がる香ばしい香りと、サクッとした外の生地、そして、その中にあるふわふわの白い部分が奏でる原点にして頂点である、究極の完成形的形態な食を味わった僕は、ポロリ、と一筋の涙を流した。
「…………………………………」
僕はひたすらに夢中になって味わって食べた。目の前にあるパンのこと以外に何一つとして考えることもなく、ひたすらに食に夢中になった。今まで食べてきた残飯とは比べ物にならない食に、ただひたすらに夢中であった。
「ぁぁあ」
手の中に、口の中にもう残らぬパンを思って、僕は声を漏らした。もう一つあるが、これはペットのナーニャのたまに残して置くんだ、だから食べちゃ駄目だ。
おいしかった、どうしようもないくらい、おいしかった。
これからの人生、これに比するおいしさなど、無いのではないかと思うほどだった。
この瞬間の、この一食の感動を、僕は一生忘れないだろう。
口の中の喪失感と渇きをいやすために、パンの隣に置いてあった水を僕は飲んだ。
渇きを潤してくれた水もとても冷えていておいしかった。
少しばかりの間余韻に浸った僕は、倒れることの原因となった隕石について思い出した。
ネックレスと、パンと水と、一夜をここで過ごしながらも生きていたこととの謎で完全に忘れ去ってしまっていたのだ。
一応あたりを見回してもクレーターなんてないし、途中で消えたんだろうか。それとも、あれは僕の間違えで、遠くに落ちたりしたんだろうか。あの時のことを思い出そうとはしてるんだけど、走ってる最中で、只々必死だったから何も覚えて無いな。何も分からない。
て、まぁ生きてるんだしどうでもいいか。やっぱり案外なんでもなかった。考えたってしょうがないし忘れよう。
しかし、思い直すと気になるのはやはり気絶していた僕を助けてくれた人の事だ、誰なんだろうか、毛布かなんかを掛けて、暖をとってくれていたんだろうか、お礼を言いたい。
助けてくれた人には何もできないけど、せめて礼を言うために、あたりに何か手掛かりが無いか探してみた、しかし、辺りには僕以外の足跡は一つとして見当たらなかったし、それ以外にもその人らしき何かの痕跡は一つとして見つからなかった。
不思議なものだ、助けてくれたのに、態々ここまで周到に痕跡を消して去って行くなんて。
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