2話 

あれから2時間くらいたったか、必死に探し続けて、5個くらいの隕石を見つけた。あと2個だ、あと2個。そう自分に元気付け、地面を見る僕の顔には、汗が滴っていた。




「ここ、どこ?」


あの洞窟から、だいぶ離れたところまで来ていた僕は、気付いたら、道に迷っていた。


この、だだっ広い、荒野の中で。


道なんて無いんだけど、帰り道がわからない。

帰るべき、肥溜め的な家の方向が分からない。

自分の足跡も何故か途中で途切れてるから辿れない、どうしようか。

馬鹿みたいに夢中になって隕石を探し続けて、方向も確認せずに来てしまった事が原因だろう。


自分には心底呆れる。

何をやってるんだか。

諦観を込めたため息をついて後悔に叫んだ。


「ああーーーーー」


何で、何で、何でまた。

前にもこんな感じで死にかけたじゃ無いか!

どうして何回も同じ事を繰り返そうとするんだか、もっと気をつけろよ!!


誰だよこんな事2度もしでかした奴!!


お前だよ!!


呆れるよ、本当、自分の注意の無さに。


反省した後、僕は自分の足跡を探し始めた。



何処だー、僕、何処から来たんだー僕は。



 おかしくなりながら約30分、遂に帰り道への足跡を見つけた。意外とあっさりと途切れた先を見つけられて良かった。

そうして僕は洞窟の入り口へと戻ってきた。隕石は見つからなかったけど、命は拾ったな、なんて、とりあえず休憩だ。


「ふぅ」


一息ついて、とりあえず僕は落ち着いた。

死ぬところだった、家は無いけど可愛がってるペットは居るんだ、あいつを残して死ぬことなんて出来ない。本当に30分程度で帰り道が見つかって良かったよ。あのまま何時間も見つからなかったら足跡も消えてたかもしれないし、最悪、干からびて死ぬところだった。まあ、案外あっさり見つかったんだけど。


命を拾った僕だけど、ノルマはまだ達成できていない。つまり、まだ働かないといけない。

楽を出来ないかと、洞窟の出入り口の近くに隕石が無いかと探してみるが、隕石は見当たらなかった。


入り口に近いからここら一帯に落ちていた隕石は、大体取り尽くされているんだ。幾ら空から降ってくるっていったってそんな頻繁にここらに降ってくる何て都合のいい事はないし、まあしょうがない。


どうしようか、僕は入り口に置いてある生ぬるい水を飲みながら考えた。今度はもう少し違う方角に進んでみようか、さっきは入り口から見て左手にある石に向かって進んだんだが、今回は右手の方にある石の方角を探しに行こう。

生ぬるい水を一頻り飲み終えた僕は、さっき貸してもらった水袋へ水を足してから、再度、しかし、慎重に出発した。


見つからない、あれから40分くらい歩き続けているが、一つとして隕石が見つからない、早く見つけたい時に限ってなかなか見つからない。

もうさっきのアホで、疲れたんだよ。

さっさと終わらせたい。


それから何時間かがたち、僕はようやく7個目の隕石を見つけた。今度は帰り道もバッチリだ。

日没までは、あと2時間くらいかな?

段々日が低くなっていっている。



 隕石採集じゃなくて、壁掘りをやっていたかった。

 隕石は、一つ一つ探すのに時間もかかるし、集中力もいる、いくら探したって見つからない可能性もあるし、制限時間もあるしで、精神的に疲れる要素が満載だ。身体的には壁掘りの方がキツイけど、あっちを一日中やれた方が僕には楽だし、合ってる。一定の動作を繰り返すだけってのも確かに結構大変なんだけど、長い間炎天下の中で集中し続けるよりかは幾分かましに思える。変えてくれたら良いのに。


 考えて、ついでに隕石を探しながら歩いていると、空が暗くなり始めた。


 もうすぐで日没なんだろう、それにしても今日は時間がかかったなー、いつもより調子がよくなかったし、アホもやった、本当はもっと余裕を持ってノルマを達成して、予備の隕石を貯蓄しておくんだけど、もう日が落ちる。辺りの空は、少しずつ、赤くなり始めていた。


「よし、帰るか」


早く帰らないと道に迷ってしまうかも知れないし、冷えるしでいい事が無い、そう思って、僕は帰路についた。


夕日が綺麗だな、昼間に僕の背中と頭とを痛ぶっていた、灼熱の熱波を齎す悪魔だとは思えない程の綺麗さだよ。雲に少し透けている様子が綺麗だ。


「あっ」


 思いながら空を見ていると、美しい白い焔の尾を引いて落ちる隕石が見えた。

 隕石の落下なんてのは、ここら辺じゃよくある事で、空を見ていると、偶に見かけるものなんだが、何度見てもその美しさと不思議さに感動してしまう。作業を終えたばかりという事もあって感動もひとしおだ。

初めて見た時は見慣れない美しい光景に感動した物だ。


 遠くできらりと輝きながら落ちる様は、物凄く美しいのだ。一度、あれが地面に衝突する所を見てみたい。衝突後のクレーターとかだったら、たまに見るんだが、地面に衝突する場面は見た事がない。

ちょっとだけ気になる。


「ん?」


僕は、隕石を眺めて居る事に、何か違和感を感じた。

そう言えば、考えながら見れてる?

おかしいな、あの隕石、いつもの物より、落ちるのが遅い?


あの隕石、おかしいぞいつもだったら、すぐに消えるか、落ちるかするんだけど、まだ落ちてない?それに、色が変わった?なんだ?


それに、なんか、方向転換してないか?

こっちに飛んできて無いか?

方向転換なんてすることあるの?

いや、無いだろ!?


もしかして、気のせいか?


元々こっちに向かってきてたのか?


うーん。ない、はず。


あんまり遠いから、どこに落ちようと向かってるのか正確には分からないけど、それでも、今、言えることは、まず、間違い無く、こっちの方向に向かって落ちて来てる。


大きさがとうとかこうとか、そう言うのは良く分からないけど、なんか、なんか嫌な予感がする、近くに落ちない可能性の方が高いとは思うんだけど、当たる可能性もゼロじゃ無いしな、どうしようか。さっきまでのんびり歩いてたのに、景色について考えてたのに、急だな。

あんまり現実感が沸かない。

というか、早く逃げた方がいいんじゃないだろうか?

ここらは一帯更地だし、隠れる所もないし、せめて障害物がある所に逃げた方がいいかもしれないな。


よし、とりあえず逃げるか。


うん、逃げよう。


走ろう。


走って逃げよう。


みっともなくてもいいから、とにかく全力で逃げよう。


急に危機感が沸々と湧いてきた僕は、迫り来る命の危機を感じて、度重なる労働で疲れた体に鞭を打ち、火事馬鹿力もかくやの速さで逃げ始めた。


自分はこんなに早く走れたのか、と思うほど、僕の力は引き出されていた。

やっぱり人間、危機を感じた時は息苦しいとか、酸素が足りないとか、疲れたとかが、気にならなくなってしまうようだ。

僕は衝動のまま、全力で叫び声を上げながら走った。


「うわぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」


叫んでると、いくらか気合いが入るんだが、体は疲れる一方だ。でも死に際くらい、叫んで無いとやってられない。そう思い、僕は全力で叫んで走った。

みっともなくても良い、僕は生きたいんだ。

少し後ろを振り返ると、隕石は、まだこっちに飛んできていた。さっきより、もっともっと隕石との距離が近づいて来たからから、隕石の落ちてくる速さを強く実感した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


僕は、死の間際を感じて思い出した。

このままでは、奴隷として一生を終える事になる。

平民の生活も、少しはしたかった。

せめて一日くらいは、平民として普通に暮らしたかった。

奴隷として生まれて、奴隷として死ぬなんて。

好きな女とも出会えなかったし、やり残した事ばかりだ。


「うぁぁぁぁぁ!!」


僕が走るその後ろには、ヤケクソな走り方のせいか、土煙がもうもうと立ち上がっていた。

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