第19話 歌声

 いまや、絵も描かないというのに

 まだ私があの公園へ通っているのは

 もしかしたら「そこに弟がいるのではないか」という

 希望とすら呼べぬ、暗い望みがあるからだ。

 この夜のやみは、きっと私の心なのだ。

 こんな私にはもう、あの素敵な月の絵は描けない。

 星だって、いずれ見えなくなってしまうのだろう。

 今夜にも、正に今にも

 公園へたどり着く前に、私は溶けて消えてしまいそうだ。

 そうしていると、どこからか歌声が聞こえてきた。

 男の声だ。

 バラード調の穏やかな歌である。

 耳を澄ませると、そばから小川のせせらぎも聞こえた。

 川の流れにのって

 男の歌声がここまで運ばれてきているのだ。

 私はこの川上に公園があることを知っていたので

 川の音を頼りに

 夜のやみを掻き分けながら、進んでみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る