第13話 物語が苦手な月

 少年が、ポテッとベンチへ座ります。

 不思議に思った月は、彼に声をかけてみました。

「こんな夜中にどうしたの?」

 おどろいた少年は、目を丸くして月を見上げましたが

 すぐに「ああ、なんだ」と興味を失ってしまいます。

 月は思わず感心しました。

「月の僕が話しかけてるのに

 君はちっとも不思議に思ったりしないんだね」

 そう言うと、少年は不満そうに鼻を鳴らします。

「そんなもの。数えきれないほど物語に書いたよ」

 今度のお客さんは、小説を書くのが好きな少年でした。

 でも、歌や絵と違い

 月は物語というものが苦手でした。

「やだやだ。物語なんてもの、僕はきらいなんだ。

 君たちが、月には兎やカニがいるとか言うもんだから

 僕の顔のうえでは、いつも兎が餅を突いているし

 最近なんてカニ鍋を囲んでいるんだぞ。

 まったく、いまいましいったらないよ」

 月はウンザリしながら文句を言いました。

 すると、少年が目を輝かせます。

「本当に、月には兎がいるの?」

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