第8話 月を見上げる男

 ――あんなふうに、もしも僕が描かれた月であったなら。

 ――彼女をもっと身近に感じられたのだろうか。

 その時でした。

 今まで黙って絵を見下ろしていた画商の男が

 突然、こちらを振り向いたのです。

 そして、ニヤリと笑いながら一言。

「そんなら、お前さんが下りてきたらいい」

 おどろいた月は、スッカリ青ざめてしまいました。

 男は、またグイッとビールをあおります。

 それから、また別の夜がきました。

 月はくたびれていて

 いつもみたく人々を照らしてあげる元気がありません。

 うすく開けたまぶたから、ボンヤリと

 ほの暗くなった世界を眺めています。

 それでも彼は

 あの公園だけは照らすことにしていました。

 毎夜、誰もいなくても。

 いつかまた、夜のやみに、娘が迷い込んだら

 この光をたどって出てこられるように。

 …………。

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