第7話 指先の月

 広場には大勢の人々がいて

 食事をしたり、踊ったり、世間話をしています。

 流石は愛と情熱の国といったところでしょう。

 いくつも灯された電灯が放つ、暖かい光。

 手前にある、あい色の運河にもそれが反射して

 夕暮れのような、朝焼けのような

 美しい色合いになっているのです。

 人々の生活がギュッと詰まった画面の左上のところ。

 小さい夜空に、ヒョッコリと浮かぶ満月が彼でした。

 月は、たまに彼らを眺めるのが好きでした。

 あの一夜に巡り合う人々の、よろこびの輪。

 水面を鮮やかに照らす、オレンジ色の光は

 きっと電灯ばかりが、あの光の源ではなかったでしょう。

 そうして遠くから絵画を眺めていると

 画商の男が、ふと描かれた満月を指でなぞりました。

 月の心にはなんとも言いようがない

 複雑な感情が湧いてきます。

 それは、あの絵に描かれた自分に対する妬みでした。

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