第6話 絵画の月

 男は、胸の内ポケットからタバコの箱を探りあてると

 手なれた様子で「ピース」をくわえて、火をつけました。

 そうしながら、ビニル袋に詰め込んだビールの缶を

 片手だけでプシュッと開けるのですから

 月は、もう今夜は別のところを照らそうかと

 ウンザリしてしまいます。

 ですが、好き放題にくつろいでいる男が

 ふいに板の包みをほどいたので、彼は気になって

 その中身を見てみることにしました。

 それは一枚の絵画でした。男は画商だったのです。

 月は、その絵に見覚えがありました。

 なにしろ、それが描かれたとき

 彼もその場にいたのですから。

『カフェ・ド・ヴェ・ラモーレ』

 イタリアのとある島の夜景色を描いた作品。

 運河沿いにある石だたみの広場に、

 それを囲むいくつかの喫茶店があります。

 その右端にあるのが、題名の由来になった店でした。

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