第3話 月が綺麗ですね

 しかし、どうしたことでしょう。

 気が遠くなるほどの間、彼女はうつむいたままでした。

 せめて彼女の顔を一目見てみたかった月は

 ムクムクッと膨れ上がり、いくらか頬を赤らめ

 空にかかる虹のような白い光の輪をかかげて

 こうこうと、夜空から言葉もなく呼びかけました。

 ――そこのおじょうさん。どうか僕を見つけて。

 その時でした。彼の想いが伝わったのか

 娘がパッと顔を上げたのです。

 彼女の目には、いっぱいの涙がありました。

 おけしょうが涙に溶けだして

 赤く染まった頬っぺを伝っていきます。

 まるで娘の中から夜があふれて

 彼女の心にある星たちが流れ出ていくようでした。

 娘は、ワナワナと唇を震わせながら言います。

「月は、綺麗ね」

 彼はドキッとして、雲の後ろに隠れてしまいました。

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