夏幽霊
芥坂 紗世助
はしがき
いつまでも覚えている。あの噎せ返る様な夏を。掠れるよりも鮮明で輪郭よりも朧気なそれは泡沫の様に弾けていた。僕の記憶になってしまった彼女は一種の呪いとして僕を今でも蝕んでいる。不思議と苦痛とは思わないが、空いた心は代用する他なかった。金輪際君を許す事はないだろが、また会って思い出となった話をしたいと思う。
もうこんな季節か。そう思いながら僕は帰路についた。あたりはすっかり暗くなってしまっていた。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、なんとなくテレビのリモコンに手を伸ばした。別に観たい番組があるというわけではないが、日課になっているので仕方がなかった。テレビでは花火大会の中継がやっている。今でこそ特別な感情を抱くことはないが、幼少期には感動をよく覚えたものだ。そういう感性というのは大切にしてきたつもりだったが、それどころではなくなってしまうのが大人というものである。花火はいつからこんなに淡いものになってしまったのか。もしかしたらあの出来事のせいなのか。そうでないと思いたい。何か大切なものを失ってしまった僕はそうやって大人になっていった。
夏幽霊 芥坂 紗世助 @akutasaka_sayosuke
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