you just hold me!

谷合一基生

第1話 頼りない相棒

 適度に涼しい朝の空気ほど気持ち良いものはないさ。そう言い聞かせて俺は眠たい目をこすって、大して気持ち良くもない曇り空の朝を迎えた。いつものように二階の自室から階段を下りリビングに行く。そしてどんよりした朝ほどカーテンをガラガラっと開けるのさ!ガラガラ!!さぁ見えてきたぞ!今日も変わらない世界が!おはよう世界、おはよう日本!

 あ、あともう一つ見えてきたものがある。そいつは友達ってわけじゃない。けど恋人ってわけでも、勿論家族でもない。けどそいつは俺のことをここ最近ずっと見張っている。間違えた、見守っている。庭の芝生でぐうたらと寝そべっているそいつは背中をボリボリと掻いている。まるで休日のおっさんだ。

「ユータぁぁおはようですぅぅ。。。ふふぁぁぁ。」


「それで、それで、あのねいつになったら家の中に入れてくれるのですかぁ?」


そいつはムッとした顔をして、部外者を見つけた犬のように俺を威嚇する。

 

「そろそろ働けよ。何でもいいから。」

「そしたら入れてやることを考えてやらなくもない」


「無理ですよぉ。ただでさえ生きる気力が湧かないのにぃ」


 「そりゃ俺だって不運だとは思うけどな」


 「ユータには分からないですよ、無実の罪で学校を"退学"になった人の気持ちなんて」

 

 俺はこの女を養っている。え?養っているのに何で庭の犬小屋で生活しているのかって?おいおい誤解しないでくれよ。俺は庭に女を飼って虐待しているわけじゃない。こいつには自分の家がある。しかも結構な金持ちなのだ。こいつはメンタルヘルスだとか言って俺の家の敷地に居座っているだけなんだ。つまりは不法滞在者だ。まったくなんて奴だ!しかしただこいつはとある暴力事件を起こして入学早々に学校を退学になり、親に見捨てられ実家の敷居を跨ぐ権利を失っただけに過ぎないのだ。そんなどこの誰にでもありそうな境遇の人間を俺が幼馴染だっていうだけの理由で匿ってやってるのだ。まったく感謝してほしいものだ!おっとそれと言い忘れた。こいつの名前は"ミナト"だ。何とも面白みのない名前だ。


 「わーかった。もっと寒くなったら家に入れてやる」

 「えーーそれっていつになるのですか?まだ5月ですよ?」

 俺はカーテンを再びガラガラっと閉め、一連の会話を無かったことにして、ダイニングで健康的な朝食を摂った。そして自室に戻り学校に行く準備をしている最中のことだった。

 『キャーーーーーーーーー!!!!!ドンドンドンドンドン!!!!ガシャンガシャン!!!』

 下からとんでもない爆音が鳴り響いた。


 「な、なんだ!?ミサイルでも落ちたのか!?!?」

急いで音の発生源であろう一回に行くと、ミナトがヴァレリーナのように踊り狂っていた。なんだこの光景は?

 「一体どうしたってんんだ?そ、その制服は?」


「学校に行くのです」


ミナトはふざけているのか、赤い制服のスカートの裾を両手の親指と人差し指で摘み上げお嬢様のような美しい一礼をする。まぁちょっとしたお嬢様であることは事実なのだが。そんなことどうでもいい。

「お前退学じゃなかったのか?」


「今日から復活です」

「だから急いで準備をしたのです。電報さんで届いたのです。だから早く行きますよユータ」

 声のトーンとは裏腹に、ミナトはスカートのプリーツをフワフワヒラヒラさせながら何度も飛び跳ねている。

 俺には状況がいまいち分からなかったが、電報によれば、どうやらミナトの退学措置が取り消しになったらしい。あんな”暴力事件”を起こしたのに退学が取り消されるなんて不自然だ。どんなに大きい力が働いたのか。学園生徒会か?それとも、、、もっと上か?一般生徒である俺には到底想像がつかない。


【学園の格式高い規律に則り、本学一年生の退学措置を取り消しとする。ついては本日より学園に復帰せよ】


 あまりにも急な出来事で俺は腰が抜けた気分だが、これでミナトはこの家を出ていくことになるだろうから、俺としてはこんなにも待ち望んだ吉報はない。ん?待てよ?こいつは学園に復帰する。そしてこいつは俺と同じクラスだったのでまた元のクラスになる可能性が高い。と、ということは、またトンデモ学園生活が戻ってくるってことかーーーー!!!!


この世界の主人公である俺の幼馴染的存在であるミナトは主人公の家に居座っている。この設定だけでヒロイン的存在であるこの女は絶対的に美少女であると思われるだろうが実は違う。しかしこんなこと女の子に言うのはなんだが、チョー微妙なのだ。いつも暗い感じで少女っぽさを感じられない。美人っぽい見た目なのだが性格が暗すぎて何とも言えない。自分でもこんなことを言うのは幼馴染として辛いことだが事実なのだから仕方がない。そんな奴とまた?前途多難、お先真っ暗でしかない。


 しかしとりあえず今日はミナトと一緒に登校することにした。登校中ミナトのくだらない色々な話を聞かされたことは置いといて、学園に着くと俺にとってはいつものクラスの光景が広がる。ただ隣にいるパッとしない女が今日は異彩を放っているようだった。

 ザワザワとクラスの連中の囁き声がこだまする。ミナトはそんなこと気にしないと思うが、1か月ぶりの学園はこいつにどのように映っているのだろうか。

 

 俺たちはギリギリに登校したので、すぐさま教室にいた教師によってこの事態の説明が始まった。


「諸君も知っている通り、ここにいる立花は先日この学園を退学になったが、今日から立花はこのクラスに復帰となる。」

うんうん。

「それと鏑木。」


ん?


「はい!」



「残りの学園生活の間、立花はお前の"相棒"となる。」


......................は?


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