1話

チャイムの音で意識が浮上し、ゆっくりと覚醒かくせいする。


いつの間にか眠ってしまった様だ。


ごめんねセンセー。


と言うか、あるあるじゃ無い?


ぐっすり眠ってたハズなのに、なぜかチャイムきっかりで目がめるの。


ゆっくり頭をもたげて時計を見る。


うわ、次持久走じゃん。


出たよ年一の謎授業、無駄むだに疲れるだけのやつ。


マァ、氷室君がかっこいいから良いんだけど。


グラウンドに出てみるとあらまぁ見事な曇天どんてん


もしも今日雨が降ったなら私の命は家まで保たないだろう。


早起きは三文の徳というじゃない。


朝に余った時間を、前髪との格闘かくとうてた私は報われないのか。


そもそもの話、長距離走ちょうきょりそうで前髪とサヨナラするのはわかってるんだけどね。


タイム計測のためにペアを作るんだそうだが、此処ここは声をかけるべきであろう。


今までの私はもう居ないのだ。


彼は女嫌いだと聞く。


「こんな時だけ、理玖と人格が入れ替わってしまえばいいのに」


などと考えてしまう私にはほとほと愛想が尽きる。


突っぱねられる可能性だって十二分にある。


それでも、言わずに後悔するよりは当たってくだけた方が幾分いくぶんかマシだろう。


恋愛にいて負った傷はオトメの勲章くんしょうだから。


「ア、あの、氷室君…!」


嗚呼ああなんて嘆かわしいのだろう。勇気ある少女の声は、その他大勢に紛れてしまった。


彼女のライバルであるカノジョたち、それに如何いかにもな体育会系の男たち。


サッカー部のエースの人気は伊達だてじゃ無いのね。


彼にとっては所詮しょせんn分の1なのだ。


もういっそ、厚かましくなってみようか。


だから


「氷室君!私と長距離走、ペア組んでいただけませんか?」


まるで一世一代の告白だ。


顔を真っ赤にして、所々吃どもりそうになって。


だけどまっすぐな瞳が彼を射抜いた。


だから、これはきっとアナタの気まぐれ。


今はそれでも良いの、今は。


「ああ、いいよ。」

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