第4話

 この世界にはいくつかの力がある。

 電磁気力、弱い力、強い力、重力、文学少女、化学少女、剣道少女。

 これは噓だ。しかし噓つきの噓と本当をどうやって判別することができるのか。


 エアコンのリモコンの電池を求めて旅を続ける我々の前に終電王ファイナル・デン・オーが現れ、我々のほとんどが死んだ。九十九人中九十人ほどが死んだ。終電も撃破された。

 終電も亡くなるような時間でも太陽は決して落ちずに我々を照らしていた。我々は電照菊か。

 都市を走る各私鉄とJRの電車と新幹線が何十両も合体した高層建築物並みの体躯の相手に九十人死亡で耐えたことは奇跡のようなものだ。


「ダメだ助手くん!!自爆なんてしないでくれ!!」


 俺は自爆するつもりなんざなかったが、博士が目尻に涙を溜めて、俺が自爆すると思っているらしいことを宣っていた。なので俺は真剣な表情を維持するのに苦労した。この世界の物質の構造や性質を研究するようなモノには他の存在者というものを理解することは難しいのか?社畜は人間ではないか。


「そういえば社畜には自爆機能があったな」


 我々の同僚の死体に目線を向ける。社畜は企業の所有ブツであり、その製造・開発は各企業において行われている。人間とほとんど同じ遺伝子を持つがそれはチンパンジーも同じだろという意見が一般的である。昔々は他者が自らと同じように自我や思考を有するということも理解していなかったからな、愚かな人間は。

 社畜と人間の大きな違いとしては、自爆機能がある。企業の秘密を守るために、企業は社畜を自爆させることができる。

 ところで博士の理解では『助手くん』は同僚を自爆させるのか、自らが犠牲になるのか。


「社畜ども、エアコンのリモコンの電池を諦め、熱き室内で死ぬまで働いてください」


 終電王ファイナル・デン・オーは言った。マイクによって拡声された音声は電車の車内放送でよく流れるような独特なアクセントがあった。

 どうするか。ここで死んでも『俺』は死なない。自らが死ぬことがないという事実は物事と真剣マジで向き合う心を麻痺させる。


「違う!我々は死んでも構わない!だけど機材やアレの温度管理のためにエアコンのリモコンの電池が必要なんだ!」


 博士は言った。悲しいことだが、博士も社畜であり、企業利益のために自らや同僚の犠牲は度外視している。それでも『助手くん』の存在に執着するのは企業の規則に反するんじゃねえか?まあ俺の知ったことじゃねえが。しかし俺の中にも悲しみなどという感情があったのか。

 俺が初めて博士を観測したのは、数年前のことだった。永遠の放浪の中、労働災害でくたばった『助手くん』の身体を奪い、数えるのもうんざりする転生を果たしたときか。

 上位次元視点メタ的にもそれくらい昔だったか。俺は文学少女と剣道少女にしか興味がない。あとお前に誤解されたら困るから説明するが、俺は男性だ。『助手くん』の身体も男性である。この世に一人称が俺の女性が存在するが、俺はそんなものポルノだと思っている。俺っ娘(キャラクター)とはそれを見る鑑賞者の欲望を満たすポルノだ。極論、偽りの世界の中にある全ての操り人形とは欲望される存在でありポルノなんだが。


「大々統一理論の名の下にこれを示す。剣道少女の秘密コンプレックス


 俺の詠唱により終電王ファイナル・デン・オーはその合体を強制解除され、ただの鉄くずに戻った。

 お前に言うんだが、大々統一理論なんてものはないし、ここは虚構に過ぎない。真夏の夜に見る夢にいかなる整合性があるかよ。


 



 

 

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